2017.2.22

『オニ文化コラム』Vol,23

 
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術学部講師

春を感じると同時に花粉症も襲来するこの時期。皆様いかがお過ごしでしょうか?
などご挨拶しながら、3月のオニについて。

今回は石川県に目を向けてみます。
 
石川県の鬼といえば、私は、まず「御陣乗太鼓(ごじんじょだいこ)」が頭に浮かびます。石川県輪島市名舟町に伝わる民俗芸能で、戦国時代に生まれたという由来があります。こちら、樹の皮で仮面を作り海草を頭髪とし、太鼓を打ち鳴らす姿でした。
 
天正4年(1576年)、上杉謙信が奥能登地方に攻め入りました。その軍勢が名舟にも迫ってきたので、名舟の村人たちは知恵を絞りました。なにせ武器を持っていない。その状況下で何をしたらいいのか・・・そりゃ、知恵を絞るわけです。その結果、敵を退けるために、真夜中にかがり火をたいた中で恐ろしい姿をして太鼓を打ち鳴らしたのです。結果、驚いた敵は襲撃してこなかった・・・という由来話です。ここに鬼面も合体。鬼の面をつけた名舟の男たちだけが打つことが許される御陣乗太鼓は、それこそ「鬼気迫る」ものがあります。
 
しかし、そんな御陣乗太鼓を見ることができるのは夏。今の時期に行われるものではないので、今回は石川県の別の鬼をご紹介いたします。
 
場所は変わって石川県能登町。こちらには12月にナマハゲ(秋田)ならぬアマメハギが里にやってまいります。囲炉裏でヌクヌク休みすぎると出来る火ダコ(アマメ)を剥ぎ取りにやってくるから「アマメハギ」。タコを剥ぎ取って「さあ、春だから働けー!」と、里の人間のやる気を促す日本古来のオニです。これはしかし12月。

3月の能登町には別の鬼の祭があります。能登町の木住神社で3月末に行われる「鬼打ち祭」です。こちらに登場するオニ「猿鬼」は災いの象徴。これを退治して、地域に五穀豊穣・無病息災をもたらすための祭です。
なにを行うかと言いますと、境内に鬼の絵を立てかけます。氏子たちがこの絵に向かって矢を放ち、絵を破ることで鬼退治となります。その後桃の枝を両手で持って、即興で踊るのですが、何はともあれ鬼を退治して災いを駆除して春を迎えるのです。
 
アマメハギは迎えられるオニですが、猿鬼は退治されるオニ。日本は本当に色々なオニが居ますね♪

山崎 敬子 / Yamazaki keiko

実践女子大学院文学研究科美術史学専攻修士課程卒。大学在学時から折口信夫の民俗芸能学を学び、全国の祭礼を見て歩く。有明教育芸術短期大学子ども教育学科非常勤講師(民俗学)や早稲田大学メディア文化研究所招聘研究員などを経て、現在は、玉川大学芸術学部パフォーミング・アーツ学科講師(民俗芸能論)や学習院さくらアカデミー講師ほか。また、民俗芸能を地域資産として活かすべく、(株)オマツリジャパンなどで地域活性に取り組んでいる。


著作例:
編集:『年中行事辞典』(三隅治雄・編/東京堂出版 2007年)、
共著:『メディアの将来像』(メディア文化研究所・編/一藝社2014年)
著書:『にっぽんオニ図鑑』(じゃこめてい出版 2019年)
脚本:朗読劇『イナダヒメ語り』(武蔵一宮氷川神社 2018年)
コラム:オニ文化コラム(社)鬼ごっこ協会 毎月更新)、山崎先生の民俗学(ミドルエッジ)、にほん風習風土記(陸上自衛隊)、氷川風土記(武蔵一宮氷川神社)