2015.6.22

『オニ文化コラム』Vol,3

 
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術楽部講師

今回は神話と鬼のお話です。
皆様、奈良といえば何を連想しますか?
おそらく、何人かくらいは「鹿」を連想されるのではないでしょうか?

この鹿…春日大社に由来がある存在でもありまして、「鹿島立神影図(かしまだちしんえいず)」をご存知の方もいらっしゃるかも知れません。これは、春日本社第一殿の祭神・武甕槌命(タケミカヅチノミコト)が、鎮座地の常陸国(茨城県)鹿島を発ち、転々とした後に春日の地に到ったという、春日大社の草創に関わる伝説に基く礼拝画のことです。これら絵画では、武甕槌命が鹿に乗って移動されるお姿が描かれています。そう、鹿です。
この逸話は、奈良の鹿が霊獣といわれる由縁でもあります。公園で無邪気に歩く姿の向こうに茨城県が見える方もいらっしゃるかもですね。また、この逸話から転じて「鹿島立ち」という単語をもって「旅行に出発すること。旅立ち、門出」のことを意味するようになりました。

 さて、今回は鹿のお話はここまでにして、祭神・武甕槌命についてお話します。

 場所をかえ、ここは出雲・石見地方。ここに古くから伝わる神楽『石見神楽』があります。この神楽に「道がえし(ちがえし)」という演目があります。別名を「鬼がえし」といいます。そう、鬼です。 どのようなお話かと言いますと、島根県浜田市観光協会様のサイトには以下のように説明されております。

 「常陸(ひたち)の国、鹿島神宮(茨城県鹿島町)の祭神である武甕槌(たけみかづち)の命(みこと)が世界各地を荒し廻った大悪鬼を退治する神楽。神と鬼が幕を挟んでの言葉の戦いで掛け合い、そして立ち会いとなるが、鬼は破れて降参してしまう。幕内の鬼(舞台の外の場合もある)と神との幕を挟んでの掛け合いが特徴。また、石見神楽では珍しく鬼が降参し、許されると言う形で終わる。鬼を殺さずに道の途中から反すので道反しという。」

 この「鬼がえし」以外にも鬼が出る演目はありますが、私はこの演目が好きです。退治せず、許すというエンディング…素敵だと思いませんか?

 民話に出てくる鬼は「桃太郎」のように退治されることが多いかと思いますが、許す=共存のお話を今回は紹介させていただきました。

山崎 敬子 / Yamazaki keiko

実践女子大学院文学研究科美術史学専攻修士課程卒。大学在学時から折口信夫の民俗芸能学を学び、全国の祭礼を見て歩く。有明教育芸術短期大学子ども教育学科非常勤講師(民俗学)や早稲田大学メディア文化研究所招聘研究員などを経て、現在は、玉川大学芸術学部パフォーミング・アーツ学科講師(民俗芸能論)や学習院さくらアカデミー講師ほか。また、民俗芸能を地域資産として活かすべく、(株)オマツリジャパンなどで地域活性に取り組んでいる。


著作例:
編集:『年中行事辞典』(三隅治雄・編/東京堂出版 2007年)、
共著:『メディアの将来像』(メディア文化研究所・編/一藝社2014年)
著書:『にっぽんオニ図鑑』(じゃこめてい出版 2019年)
脚本:朗読劇『イナダヒメ語り』(武蔵一宮氷川神社 2018年)
コラム:オニ文化コラム(社)鬼ごっこ協会 毎月更新)、山崎先生の民俗学(ミドルエッジ)、にほん風習風土記(陸上自衛隊)、氷川風土記(武蔵一宮氷川神社)