2015.10.29

『オニ文化コラム』Vol,7

 
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術楽部講師

幕末~明治にかけて大活躍した絵師・河鍋暁斎をご存知でしょうか?師匠の一人である浮世絵師・歌川国芳から「奇童」と、二番目に入門した狩野派絵師・前川洞和から「画鬼」と呼ばれたほどの才能と探究心を持った絵師です。

 浮世絵や狩野派はじめ様々な画風を取り入れて日本画の表現領域を押し広げた暁斎、絵師として独立した頃は「狂斎」と名乗っていました。その頃に江戸の小間物問屋・勝田五兵衛という後ろ盾を得て「地獄極楽めぐり図」(明治2~5年・1869~72)を描きあげております。 これは、14歳で夭折した勝田五兵衛の愛娘たつの供養のために描かれた40図の画帖。あの世でのたつの姿を描いているのですが、これがまあ明るい。お釈迦様のお迎えに始まり、お釈迦様の先導で様々な冥界を名所めぐりのように訪ね歩いています。なぜか浮世絵師や歌舞伎役者と出会ったり、時に親族と再会したり。めちゃくちゃ楽しんでいます。最後は極楽に向かうのですが、さすが明治時代、最新の蒸汽車(蒸気機関車)に乗って行きます。この画が描かれた頃はまだ蒸気機関車は一般公開されていないため、暁斎の空想で描かれているのですが、なにはともあれ、地獄極楽にも文明開化が起きています! さて、そんな名所めぐりの中に「賽の河原」もあります。賽の河原とは、親より先に死んだ子供が行く冥途の三途の川の河原。子供たちが父母の供養のために小石を積み上げて塔を作ろうとするけれど絶えず鬼に崩されてしまい、いつまでたっても積みあがらない、そういう地獄です。そこへ地蔵菩薩が現れて子供たちを救うというお話なのですが、暁斎はそんな暗い風景は描きません。めぐり図では子供たちが獄卒(地獄の鬼)や地蔵と「ことろことろ」という鬼ごっこをして遊んでいます。たつも子ども達にプレゼントを配りだし、みんな笑顔です。鬼ごっこで子供も鬼も地蔵も笑顔。こういう地獄も楽しくて良いですね。幼くして亡くなってしまったのは誰のせいでもないのですから、皆で楽しく遊べばよいのです。

 今回は「画鬼」が描く地獄のお話をお届けいたしました。ことろことろについては鬼ごっこ協会のサイトに詳しく載っていますので、そちらをご覧くださいませ♪

山崎 敬子 / Yamazaki keiko

実践女子大学院文学研究科美術史学専攻修士課程卒。大学在学時から折口信夫の民俗芸能学を学び、全国の祭礼を見て歩く。有明教育芸術短期大学子ども教育学科非常勤講師(民俗学)や早稲田大学メディア文化研究所招聘研究員などを経て、現在は、玉川大学芸術学部パフォーミング・アーツ学科講師(民俗芸能論)や学習院さくらアカデミー講師ほか。また、民俗芸能を地域資産として活かすべく、(株)オマツリジャパンなどで地域活性に取り組んでいる。


著作例:
編集:『年中行事辞典』(三隅治雄・編/東京堂出版 2007年)、
共著:『メディアの将来像』(メディア文化研究所・編/一藝社2014年)
著書:『にっぽんオニ図鑑』(じゃこめてい出版 2019年)
脚本:朗読劇『イナダヒメ語り』(武蔵一宮氷川神社 2018年)
コラム:オニ文化コラム(社)鬼ごっこ協会 毎月更新)、山崎先生の民俗学(ミドルエッジ)、にほん風習風土記(陸上自衛隊)、氷川風土記(武蔵一宮氷川神社)