2015.12.24

『オニ文化コラム』Vol,9

 
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術楽部講師

年の瀬の寒さもひとしおなこの頃、年末は何かとせわしない時期ですね。

 一年は「春夏秋冬」と言いますが、一説に、春は「植物の命が『張る』」、夏は「植物がモリモリ『盛』り茂る」、秋は「種子が実って飽和状態になる『飽き』」、そして種が地面におちて大地に潜り…冬は「命が大地の中で『殖』える」という意味に由来すると言います。
今は冬から春に向かう季節ですね。寒い大地の中で命が殖えて、春に大地の上に張り出してくることでしょう。

 そんな時期に行われる民俗芸能は、来年の五穀豊穣や子孫繁栄、無病息災などを願って神様をお迎えして行う神楽が特徴的です。富をもたらしてくれるカミサマですね。

 このカミサマの中には鬼もいます。仏教的な地獄の鬼(獄卒)ではなく、日本古来の「隠(オニ)」由来のカミサマ。普段は姿を見せない隠れた存在が、この時期に私たちの前に姿を現すのです。
例えば、静岡県浜松市(旧・引佐郡引佐町渋川寺野・同川名・旧天竜市懐山など)に伝わる鬼をご紹介しましょう。
浜松市内には国の重要無形民俗文化財に指定されている「遠江のひよんどりとおくない」という正月行事があります(平成6年指定)。400年ほどの歴史があると言われるこの祭り、学術的には「田楽能」に分類されますが、つまりは、新年に行なわれる豊作祈願の予祝行事の一つです。予祝とは、その1年間の豊穣を予め祝うこと。祝われたカミサマが「あ、そうか、じゃあ今年は豊かにしなくちゃだね」と思って実りを約束してくださるという、日本的な呪術です。

 さて、この「ひよんどり」とは、「火踊り」が訛ったものらしいのですが、では誰が登場するかというと、鬼です。「鬼の舞」という演目の中で、赤・青・黒の鬼が松明の火を激しく乱打する…と言うよりは手にしたオノで松明の火を打ち消す様を「火踊り」と呼び、それが訛ったようです。鬼のほかにも数多くの演目がありますがこの3匹の鬼による火踊りが重要だったのでしょう。
このように寒い時期に姿を現し、新しい年の実りをもたらしてくれる鬼。この時期に来る鬼はカミサマなのです。

 さて、来年はどんな年になるのでしょうか。皆様にとりましても、鬼ごっこ協会にとりましても素敵な1年になりますように。

山崎 敬子 / Yamazaki keiko

実践女子大学院文学研究科美術史学専攻修士課程卒。大学在学時から折口信夫の民俗芸能学を学び、全国の祭礼を見て歩く。有明教育芸術短期大学子ども教育学科非常勤講師(民俗学)や早稲田大学メディア文化研究所招聘研究員などを経て、現在は、玉川大学芸術学部パフォーミング・アーツ学科講師(民俗芸能論)や学習院さくらアカデミー講師ほか。また、民俗芸能を地域資産として活かすべく、(株)オマツリジャパンなどで地域活性に取り組んでいる。


著作例:
編集:『年中行事辞典』(三隅治雄・編/東京堂出版 2007年)、
共著:『メディアの将来像』(メディア文化研究所・編/一藝社2014年)
著書:『にっぽんオニ図鑑』(じゃこめてい出版 2019年)
脚本:朗読劇『イナダヒメ語り』(武蔵一宮氷川神社 2018年)
コラム:オニ文化コラム(社)鬼ごっこ協会 毎月更新)、山崎先生の民俗学(ミドルエッジ)、にほん風習風土記(陸上自衛隊)、氷川風土記(武蔵一宮氷川神社)