2016.2.9

『オニ文化コラム』Vol,10

 
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術楽部講師

京都の貴船神社の伝説には鬼が登場します。
貴船大神が貴船山中腹に降臨した際、鬼面の牛鬼こと仏国童子が付き添っておりました。この童子、口が軽くて神界の秘事をペラペラ話してしまいます。これに怒った大神が童子の舌を八つ裂きにしたという伝説です。この牛鬼、筆頭社家であった舌家の先祖にあたります。
ということで、今回は「牛鬼」のお話です。

「牛鬼」は文献に散在します。『枕草子』『太平記』『吾妻鏡』『画図百鬼夜行』等々・・・表現も性別も実は様々。一般的には牛の首と蜘蛛の胴体で知られており、大雑把にまとめると水辺にいる気性が荒い妖怪であるようです。
ここでは民間伝承に伝わる「牛鬼」をご紹介しましょう。西日本に広く伝わっている存在でして、愛媛の宇和島一帯では祭礼に登場します。

7月22~24日に宇和島で開催される「和霊大祭」では周辺各地から牛鬼が登場します。5~6メートルの牛をかたどった竹組みの胴体、丸太で作られた長い首、そして鬼面、尻尾は剣、全身は赤色の布など・・・一見すると果たしてこれはウシなのかキリンなのかと悩みますが、穴が開いた竹筒をブーブー鳴らす「ブーヤレ」の音が鳴り響く中、数住人の若者に担ぎ上げられて移動し、家々に首をゴン!と突っ込んで悪魔祓いをしていきます。     

 宇和島市観光ガイドによりますと、豊臣秀吉が加藤清正に朝鮮出兵(文禄の役・1592年)を命じた際に使われたアイテムに由来するデザインだそうです。お隣の香川県に伝わる牛鬼は牛の頭にムササビの胴体だったりして、もう何がなにやら。
ちなみに、このお祭りの本拠地である和霊神社の祭神は人。祭神・山家清兵衛は伊達秀宗の元で産業の拡充、民政の安定に手腕を発揮したものの元和6年(1620)凶刃に倒れました。その後この事件に関与した者が相次いで海難や落雷で変死したため、人々は清兵衛の怨霊だと恐れ、その霊を城北の地に祀りました。それが和霊神社の始まりです。非業の死を遂げた人間はタタリをもたらす怨霊となるため、これを鎮めて「御霊ゴリョウ」とすることでタタリを免れようとする信仰が日本には昔からあり、特に夏の行事に集中します。
御霊と鬼に出会える夏の宇和島、お勧めです。

山崎 敬子 / Yamazaki keiko

実践女子大学院文学研究科美術史学専攻修士課程卒。大学在学時から折口信夫の民俗芸能学を学び、全国の祭礼を見て歩く。有明教育芸術短期大学子ども教育学科非常勤講師(民俗学)や早稲田大学メディア文化研究所招聘研究員などを経て、現在は、玉川大学芸術学部パフォーミング・アーツ学科講師(民俗芸能論)や学習院さくらアカデミー講師ほか。また、民俗芸能を地域資産として活かすべく、(株)オマツリジャパンなどで地域活性に取り組んでいる。


著作例:
編集:『年中行事辞典』(三隅治雄・編/東京堂出版 2007年)、
共著:『メディアの将来像』(メディア文化研究所・編/一藝社2014年)
著書:『にっぽんオニ図鑑』(じゃこめてい出版 2019年)
脚本:朗読劇『イナダヒメ語り』(武蔵一宮氷川神社 2018年)
コラム:オニ文化コラム(社)鬼ごっこ協会 毎月更新)、山崎先生の民俗学(ミドルエッジ)、にほん風習風土記(陸上自衛隊)、氷川風土記(武蔵一宮氷川神社)