2016.4.8

『オニ文化コラム』Vol,12

 
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術楽部講師

桜が咲きだし、土筆もピョコンと出て…春ですね!
4月から新しい環境での挑戦をする方もおられるかと思います。
そんな春に訪れる鬼を京都からご紹介しましょう。

4月の京都、今宮神社の春の大祭としても知られている「やすらい祭」。この祭で行われる民俗芸能に「やすらい花」があります。
やすらい花は、今宮神社だけの芸能ではなく京都市の洛北4地区に伝承されております。花を飾った長柄の風流傘を先頭にした行列が登場し、笛と歌の伴奏に囃されながら赤熊(シャグマ…赤いカツラ)や黒熊(小熊…黒いカツラ)をかぶった異形の者が鉦や太鼓を打ちながら地域の辻々で「やすらい花」の掛け声と共に踊り、練り歩きます。

平安時代、疫病や災害は御霊(ゴリョウ)・疫神…この世に恨みを残して亡くなった怨霊の仕業と信じられていました。彼らが悪さをしないよう鎮める行事「御霊会(ゴリョウエ)」が盛んにおこなわれた時代です。今宮神社は元々疫神と関わりがある土地で、この地で行われた紫野御霊会(正暦5年・994年)が現在の今宮祭の起源とも言われます。この紫野御霊会の時、京中の老若男女が綾傘に風流を施し囃子に合わせて歌い踊り、病神らを移した人形を難波江に流したと言われており、これがやすらい祭のルーツとも。また、『梁塵秘抄口伝集』巻14には、久寿元年(1154年)の今宮社御霊会で「風流のあそび」をした、と記されております。風流はフリュウと言いまして、ものごとが華美な様のこと。御霊のための芸能は特に華美になる傾向にあるため、御霊向け芸能は「風流の芸能」とも言われます。

つまり「やすらい花」は御霊や疫神を鎮める祭。春の花が咲きだす=温かくなる時期、花と一緒に疫病や災害も飛散すると思ったのでしょう。

そのやすらい花に鬼がいます。先ほど、「異形の者」を書きましたが、これが鬼(大鬼)です。彼らは家々の前で「やすらい花や」のお囃子と共に髪を振って踊り、疫病をもたらす存在を追い立てて風流傘の中に集め疫社(エヤミシャ・現在は今宮神社の摂社)へ送り込んで鎮めます。そして…洛北に安らかな春が訪れるのです。

悪いモノをもたらすのではなく、悪いモノを鎮める鬼たち。素敵ですね。

山崎 敬子 / Yamazaki keiko

実践女子大学院文学研究科美術史学専攻修士課程卒。大学在学時から折口信夫の民俗芸能学を学び、全国の祭礼を見て歩く。有明教育芸術短期大学子ども教育学科非常勤講師(民俗学)や早稲田大学メディア文化研究所招聘研究員などを経て、現在は、玉川大学芸術学部パフォーミング・アーツ学科講師(民俗芸能論)や学習院さくらアカデミー講師ほか。また、民俗芸能を地域資産として活かすべく、(株)オマツリジャパンなどで地域活性に取り組んでいる。


著作例:
編集:『年中行事辞典』(三隅治雄・編/東京堂出版 2007年)、
共著:『メディアの将来像』(メディア文化研究所・編/一藝社2014年)
著書:『にっぽんオニ図鑑』(じゃこめてい出版 2019年)
脚本:朗読劇『イナダヒメ語り』(武蔵一宮氷川神社 2018年)
コラム:オニ文化コラム(社)鬼ごっこ協会 毎月更新)、山崎先生の民俗学(ミドルエッジ)、にほん風習風土記(陸上自衛隊)、氷川風土記(武蔵一宮氷川神社)