2016.5.27

『オニ文化コラム』Vol,14

 
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術楽部講師

田植えが始まり青空を燕が舞うこの季節の鬼のお話をば。

そも、「鬼」は平安時代ごろまでは「目に見えない」存在だったようです。その後、仏教の影響などを受け「目に見える」存在になり、角・牙・赤い肌などの特徴を持つようになりました。とはいえ日本の鬼は神性ある存在です。

 新潟県佐渡島。佐渡を代表する民俗芸能のひとつ「鬼太鼓(おんでこ)」に、その名の通り、鬼が登場します。

 これは佐渡各地の春祭りや秋祭りなどで行われる芸能です。その年の豊作・豊漁・厄払いのために鬼が家々をまわります。黒頭青面の雄鬼と白頭赤面の雌鬼とが大太鼓を打ち獅子2頭がからむものが多く、その起源は江戸時代に遡ると言われております。恐ろしい風貌をした、いかにも「鬼」ですが、その役目は厄祓い。佐渡の鬼は佐渡を護っているのです。

 そして、佐渡にはもう1つ、鬼が出る芸能が伝わっています。

 新潟県無形民俗文化財「佐渡の大神楽舞楽」。小木・羽茂地区に伝わる4つの神楽・舞楽の総称で、いずれも古代の伎楽に性的要素が誇示されて繰り込まれた、性風俗観の歴史を伝える文化遺産としても知られているお祭りです。

 このうち、羽茂地区に伝わるものが「鬼舞 つぶろさし」(6月15日)。

 そう、鬼です。新潟県公式観光情報サイト『にいがた観光ナビ』には「役の行者が赤鬼(チラシ棒をもつ)、青鬼(金棒を持つ)を従えて大和の青野山を切り開くさまを演じ」る、とあります。

 役の行者すなわち役小角は修験道の開祖で、前鬼(夫)と後鬼(妻)の夫婦の鬼が従っていたと言われており、前鬼は陰陽の陽を現す赤鬼の姿、後鬼は陰を現す青鬼の姿だったそうです。日本本来の山岳信仰に仏教や密教や陰陽道などが吸収されて成立した日本独自の宗教「修験道」に鬼が関わっていることが、今のお祭りでもわかることが面白いですね。

 その鬼たちの後に登場する男根様の長い棒をもった「つぶろさし」(男性役)とささらを持った「ささらすり」(女性役)が演じる内容がコミカルかつセクシャルな演技も有名です。「つぶろ」は男性器をさし、「さし」は「さする」の意味…後はご想像にお任せいたします(笑)ですが「ささら」は田の神の芸能「田楽』に必須の竹製の楽器ですので、子孫繁栄に併せて田の実りも祈願していることが垣間見えます。
 
 厄を払い、子孫繁栄や豊作を祈る時、鬼と人間が交流している…今回は鬼が身近な佐渡のお話でした。

山崎 敬子 / Yamazaki keiko

実践女子大学院文学研究科美術史学専攻修士課程卒。大学在学時から折口信夫の民俗芸能学を学び、全国の祭礼を見て歩く。有明教育芸術短期大学子ども教育学科非常勤講師(民俗学)や早稲田大学メディア文化研究所招聘研究員などを経て、現在は、玉川大学芸術学部パフォーミング・アーツ学科講師(民俗芸能論)や学習院さくらアカデミー講師ほか。また、民俗芸能を地域資産として活かすべく、(株)オマツリジャパンなどで地域活性に取り組んでいる。


著作例:
編集:『年中行事辞典』(三隅治雄・編/東京堂出版 2007年)、
共著:『メディアの将来像』(メディア文化研究所・編/一藝社2014年)
著書:『にっぽんオニ図鑑』(じゃこめてい出版 2019年)
脚本:朗読劇『イナダヒメ語り』(武蔵一宮氷川神社 2018年)
コラム:オニ文化コラム(社)鬼ごっこ協会 毎月更新)、山崎先生の民俗学(ミドルエッジ)、にほん風習風土記(陸上自衛隊)、氷川風土記(武蔵一宮氷川神社)