2016.6.28

『オニ文化コラム』Vol,15

 
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術楽部講師

蒸し暑くなってきましたね(汗)ふと、沖縄の海を思い出したので沖縄の伝統芸能「組踊」のお話を。

琉球王国時代を迎えた15世紀、琉球国王が代替わりをした時には明(中国)から派遣される使者「冊封使(サッポウシ)」をもてなしました。もてなすための部署「踊奉行」では士族らによる「御冠船踊(おかんせんおどり)」を披露してきました。そして、江戸時代。琉球は薩摩藩の支配も受けることになり、将軍や琉球国王の代替わりの時には江戸に使節団を派遣するようになりました。

ある時、当時の踊奉行・玉城朝薫(たまぐすくちょうくん)は江戸で能楽などの伝統芸能に触れます。そしてそのエッセンスを取り入れつつ、琉球の歴史や故事などを扱った歌舞劇「組踊」を生み出します。組踊の初演は1719年の御冠船踊。『二童敵討』と『執心鐘入(しゅうしんかねいり)』という2演目が上演されたそうです。

で、この『執心鐘入』。

あらすじを書くと、美少年で有名な中城若松くんがある日、首里に行く途中に泊まった宿で、宿の女に熱烈に言い寄られます。全力で拒む若松くん。思い余って「ならば一緒に死んで」と詰め寄る女。当然逃げ出す若松くん。あるお寺に逃げ込んで鐘に隠してもらったけども、結局寺まで女はやってくる。鐘から逃げ出す若松くん。恋心のあまり鬼に変身してしまった女は鐘にまとわりつく。最後はお寺の皆様の法力で説き伏せられて、エンド。

おや・・どこかで聞いたような?と思う方もいらっしゃるかもです。

そうです。能『道成寺』のエッセンスが取り入れられております。能以外にも、歌舞伎『京鹿子娘道成寺』、長唄『紀州道成寺』など、美男+鬼女+鐘な伝説は様々な芸能に取り入れられております。

このお話、実は紀州道成寺に伝わる「安珍・清姫伝説」が元ネタです。思いを寄せた美僧・安珍くんに裏切られた清姫が激怒で蛇と化し、道成寺まで逃げた安珍くんを追いかけ、逃げ込んだ鐘ごと安珍くんを焼き殺す・・・女って怖いのね、という伝説です。いつしか蛇体と鬼面の姿という表現になり、蛇女から鬼女になってしまいました(汗)

女は怒らせないほうがよいかもですよ・・・

山崎 敬子 / Yamazaki keiko

実践女子大学院文学研究科美術史学専攻修士課程卒。大学在学時から折口信夫の民俗芸能学を学び、全国の祭礼を見て歩く。有明教育芸術短期大学子ども教育学科非常勤講師(民俗学)や早稲田大学メディア文化研究所招聘研究員などを経て、現在は、玉川大学芸術学部パフォーミング・アーツ学科講師(民俗芸能論)や学習院さくらアカデミー講師ほか。また、民俗芸能を地域資産として活かすべく、(株)オマツリジャパンなどで地域活性に取り組んでいる。


著作例:
編集:『年中行事辞典』(三隅治雄・編/東京堂出版 2007年)、
共著:『メディアの将来像』(メディア文化研究所・編/一藝社2014年)
著書:『にっぽんオニ図鑑』(じゃこめてい出版 2019年)
脚本:朗読劇『イナダヒメ語り』(武蔵一宮氷川神社 2018年)
コラム:オニ文化コラム(社)鬼ごっこ協会 毎月更新)、山崎先生の民俗学(ミドルエッジ)、にほん風習風土記(陸上自衛隊)、氷川風土記(武蔵一宮氷川神社)