2016.7.27

『オニ文化コラム』Vol,16

 
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術楽部講師

日本の夏がやってきましたね。暑いですね(汗)
皆様、熱中症などどうぞお気をつけて・・・。

そんな暑い夏ですが、祭の夏でもあります。屋台や花火や浴衣姿・・・夏らしい楽しみを満喫されていることと思います♪ですが、ここは鬼文化コラム。夏の鬼も楽しんでいただけたら嬉しいです♪

岩手県から宮城県にかねて分布する民俗芸能に「剣舞(けんばい)」と呼ばれるものがあります。中でも憤怒の形相の仮面を掛けて踊る剣舞は「鬼剣舞」と呼ばれています。主にはお盆(東北は8月盆)に新仏(亡くなられて1年目の仏。シンボン。ニイボン)の家やお墓、お寺などで踊られてきた念仏踊りの一種なのですが、鬼のような面をつけ勇壮に踊るところから、近代以降から特に「鬼剣舞」とも呼ばれるようになったそうです。これは、衣装や面に意趣を凝らし、祖先や無縁仏などを鎮送する「風流(フリュウ)」の芸能でもあります。

「風流(フリュウ)」とは何か?
ブリタニカ国際大百科辞典によれば「趣向を凝らした作り物に発し,祭礼でのさまざまに飾り立てた作り物,これに伴う音楽,舞踊など」のこと。古くは「みやび」とも発音しておりましたが、平安時代には祭礼の際の傘,山,鉾、それらに付随した仮装の練り物,囃子,踊りまでがフリュウ(風流)と呼ばれるようになりました。

実は、夏の芸能には風流化したものが多く見受けられます。日本では古来、疫病や災害はこの世にうらみを残して亡くなった霊魂「御霊(ゴリョウ)」の仕業と考えました。その御霊の荒々しい気持ちを鎮めてあの世に穏やかに送るための芸能が盛んになるのが、病や災害が多い夏でした。ですので、夏の芸能は言い換えるなら「風流の芸能」なのです。

そうそう、鬼剣舞にも、この「鎮めて送る」意識が見受けられます。修験道の鎮魂呪術のひとつに「返閇(へんばい)」という呪術がありまして、これは足拍子を踏むことにより大地を踏み鎮める所作。これにより邪気を祓い清らかにし、御霊など悪霊を祓うものです。鬼剣舞の足踏みもこの返閇に影響を受けており、そもそも「剣舞(けんばい)」の語源自体が「返閇(へんばい)」にあると言われております。

夏の鬼は、風流の鬼。鎮送の鬼です。よかったら東北の鬼も楽しんでいただけたら嬉しいです♪

山崎 敬子 / Yamazaki keiko

実践女子大学院文学研究科美術史学専攻修士課程卒。大学在学時から折口信夫の民俗芸能学を学び、全国の祭礼を見て歩く。有明教育芸術短期大学子ども教育学科非常勤講師(民俗学)や早稲田大学メディア文化研究所招聘研究員などを経て、現在は、玉川大学芸術学部パフォーミング・アーツ学科講師(民俗芸能論)や学習院さくらアカデミー講師ほか。また、民俗芸能を地域資産として活かすべく、(株)オマツリジャパンなどで地域活性に取り組んでいる。


著作例:
編集:『年中行事辞典』(三隅治雄・編/東京堂出版 2007年)、
共著:『メディアの将来像』(メディア文化研究所・編/一藝社2014年)
著書:『にっぽんオニ図鑑』(じゃこめてい出版 2019年)
脚本:朗読劇『イナダヒメ語り』(武蔵一宮氷川神社 2018年)
コラム:オニ文化コラム(社)鬼ごっこ協会 毎月更新)、山崎先生の民俗学(ミドルエッジ)、にほん風習風土記(陸上自衛隊)、氷川風土記(武蔵一宮氷川神社)