2024.9.2

『オニ文化コラム』Vol,109

 
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術学部講師

 
埼玉県さいたま市に鎮座する武蔵一宮氷川神社の主祭神は須佐之男命。須佐之男命には多くの子孫神がおられます。最も有名な子孫神は「因幡の白兎」神話でしられる大己貴命(大国主命)かもしれませんが、そのほかに「大年神(おおとしのかみ)」もおられます。

 大年神の「大」は美称で、「年」は穀物や稲の意味。そもそも稲の豊饒をもたらす神格を表すととる説もあります。また、大年神は「年神」というほうが知られているかも。全国に正月に家ごとに年神を迎えて祭る風習が伝承され、稲作など農耕と結び付けられて農耕神としての性格もある神様です。 

この大年神と思われる「大年幸魂大神」を祀る、島根県大田市鬼村にある大年神社には鬼と関わる伝承が伝わっております。「鬼村」という地名からして鬼と縁があることがうかがえますが、その通り。大年神社の社伝によると大年幸魂大神はこの地域の開祖神で、この地域を「鬼村」という理由は、禍神や荒振る神の巣窟だったこの地域を大年幸魂大神は平定されたことに由来するのだそうです。神社近くに鬼岩という巨石もあり、鬼との関わりを現在でも感じることができます。
 
須佐之男命の子孫神による鬼退治は他にも。島根県いや日本の民俗芸能を代表するものの一つとしても知られる島根県の石見神楽の演目のひとつ「十羅(じゅうら)」は、須佐之男命の末娘「十羅刹女」が船上で鬼を迎え撃つ神楽で、女神対女鬼の対決が見所です。この演目に登場する鬼は「彦羽根(ひこはね)」。この鬼が船を操り、日ノ本の国を鬼だけの住む国に創り上げようと島根県日御碕から攻めてきたため十羅刹女は異国に帰るよう説得しますが、彦羽根は拒否。戦いとなりついには彦羽根一味を異国へ追い返す…という内容です。

 余談ですが須佐之男命の子孫神には大山咋神(おおやまくいのかみ)もおられます。近江国の日枝山(現・比叡山)および葛野の松尾に鎮座する神で、大山咋神は山に杭を打つというイメージから土地の所有を示す地主神とされ、比叡山・延暦寺の守護にはじまり京の都や江戸の鬼門を守護する役割を担いました。おおお。

八岐大蛇を退治した須佐之男命の子孫神の活躍もまた、語り継ぐべき神話です。
 

山崎 敬子 / Yamazaki keiko

実践女子大学院文学研究科美術史学専攻修士課程卒。大学在学時から折口信夫の民俗芸能学を学び、全国の祭礼を見て歩く。有明教育芸術短期大学子ども教育学科非常勤講師(民俗学)や早稲田大学メディア文化研究所招聘研究員などを経て、現在は、玉川大学芸術学部パフォーミング・アーツ学科講師(民俗芸能論)や学習院さくらアカデミー講師ほか。また、民俗芸能を地域資産として活かすべく、(株)オマツリジャパンなどで地域活性に取り組んでいる。


著作例:
編集:『年中行事辞典』(三隅治雄・編/東京堂出版 2007年)、
共著:『メディアの将来像』(メディア文化研究所・編/一藝社2014年)
著書:『にっぽんオニ図鑑』(じゃこめてい出版 2019年)
脚本:朗読劇『イナダヒメ語り』(武蔵一宮氷川神社 2018年)
コラム:オニ文化コラム(社)鬼ごっこ協会 毎月更新)、山崎先生の民俗学(ミドルエッジ)、にほん風習風土記(陸上自衛隊)、氷川風土記(武蔵一宮氷川神社)