
『オニ文化コラム』Vol,108
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術学部講師
「鬼」の名がつく庭園「遊鬼境」をご存じでしょうか。
「遊鬼境」は滋賀県大津の石山寺にあり、東大門を入る前あたりの瀬田川寄りにある池泉庭園です。石山寺中興の祖として知られる、経典・聖教の収集・整備に尽力した学僧・朗澄律師(1131~1208)の偉業を偲ぶ庭園で、平成11年(1999)に造られました。「石山寺縁起絵巻」によると、朗澄律師は自分の死後は鬼となって石山寺の経典と聖教を守ると誓い、律師が亡くなった後に弟子の前に金色の鬼の姿となって現れたとあります。庭園の中央には「石山寺縁起絵巻」に描かれた朗澄律師の鬼の姿を刻んだ石碑が設置されています。
さてこの石山寺。奈良時代の747年(天平19年)、聖武天皇の勅願により東大寺を開いた僧・良弁を開山として開かれた寺で、当初は華厳宗でしたが平安時代に東寺真言宗の大本山の寺院となっています。本尊は如意輪観世音菩薩を本尊とし西国三十三所第13番札所としても知られています。が、世間的には平安時代の多くの文学作品に登場することでも知られているかと思います。例えば清少納言の『枕草子』には「寺は壺坂。笠置。法輪。霊山は、釈迦仏の御すみかなるがあはれなるなり。石山。粉河。志賀」とあります。このほか藤原道綱母の『蜻蛉日記』では天禄元年(970年)7月の記事に登場しますが、紫式部が『源氏物語』の着想を得たお寺であることが一番知られている気がします。
遊鬼境内の立石に刻まれた鬼は石山寺縁起絵巻に描かれた死後の朗澄律師の御姿と先に書きましたが、これ以外に、毎年5月になると石山寺に朗澄律師を顕した鬼が出現します。それが石山寺の5月の祭礼「青鬼まつり」!
「青鬼まつり」では高さ約5メートル、全身杉の葉に覆われた青鬼像が寺の門前に登場します。しかもこの青鬼の体を覆う杉の葉は、石山寺の杉からとっておられるそうです。「死後は鬼の姿になって経典を守る」と誓った朗澄律師の鬼の姿を表現したこの青鬼、胸部分は茶色い杉の葉を用いています。これは胸毛なのだそう。作りが細かい…。
同まつりでは等身大の鬼たちも登場します。彼らは胸毛付き青鬼像の待つ東大門前の広場や遊鬼境で法要も行った後、青鬼踊りも披露してくれますよ。

山崎 敬子 / Yamazaki keiko
実践女子大学院文学研究科美術史学専攻修士課程卒。大学在学時から折口信夫の民俗芸能学を学び、全国の祭礼を見て歩く。有明教育芸術短期大学子ども教育学科非常勤講師(民俗学)や早稲田大学メディア文化研究所招聘研究員などを経て、現在は、玉川大学芸術学部パフォーミング・アーツ学科講師(民俗芸能論)や学習院さくらアカデミー講師ほか。また、民俗芸能を地域資産として活かすべく、(株)オマツリジャパンなどで地域活性に取り組んでいる。
著作例:
編集:『年中行事辞典』(三隅治雄・編/東京堂出版 2007年)、
共著:『メディアの将来像』(メディア文化研究所・編/一藝社2014年)
著書:『にっぽんオニ図鑑』(じゃこめてい出版 2019年)
脚本:朗読劇『イナダヒメ語り』(武蔵一宮氷川神社 2018年)
コラム:オニ文化コラム(社)鬼ごっこ協会 毎月更新)、山崎先生の民俗学(ミドルエッジ)、にほん風習風土記(陸上自衛隊)、氷川風土記(武蔵一宮氷川神社)