
『オニ文化コラム』Vol,106
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術学部講師
桜の散る4月に疫病を鎮める祭礼こそ京都・今宮神社「やすらい花」。
この祭りでは、桜が散り気温が温かくなる時期に流行るとされる疫病を鎮めるために、疫神を桜や椿で飾った花傘に集めて疫社に鎮めます。この傘の中に入ると一年間の厄を逃れることができると伝わっています。
この祭礼にも鬼が登場します。
祭礼では赤装束の黒毛や赤毛の鬼たち(子鬼や大鬼たち)が、太鼓や鉦を打ち鳴らしながら、長いざんばら髪を振り回して踊ります。そして「やすらい花や~」と囃子たてながら街々を練り歩き、大きな花傘に疫病のもととなる疫神を集めながら、神社を目指します。神社には御本殿の横に「疫社」があり、花傘に引き寄せられた疫神は儀式により社へ封じ込められます。花傘は直径2メートルもあり、上には若松、桜、柳、山吹、椿などの植物が飾られ華やか。祭りの見どころのひとつです。
この祭礼の記録が平安時代末期成立の「梁塵秘抄口伝集巻第十四(その五)」にあります。
そこには
“ちかきころ久寿元年三月のころ、京ちかきもの男女紫野社(※今宮神社のこと)へふうりやうのあそびをして、歌笛たいこすりがねにて神あそびと名づけてむらがりあつまり、今様にてもなく乱舞の音にてもなく、早歌の拍子どりにもにずしてうたひはやしぬ。その音せいまことしからず。
傘のうへに風流の花をさし上、わらはのやうに童子にはんじりきせて、むねにかつこをつけ、数十人斗拍子に合せて乱舞のまねをし、悪気と号して鬼のかたちにて首にあかきあかたれをつけ、魚口の貴徳の面をかけて十二月のおにあらひとも申べきいで立にておめきさけびてくるひ、神社にけいして神前をまはる事数におよぶ“
と書かれています。
文中に「ふうりやうのあそび」とありますが、これは民俗芸能「風流(ふりゅう)」のこと。除災や死者供養の祈りをこめながらも、華やかで人目を惹く「風流」の精神を体現し、衣裳や持ちものに趣向をこらして、歌や笛、太鼓、鉦などに合わせて踊るものです。
風流の芸能の初期の姿をも記録するこの文章に「悪気と号して鬼のかたちに」の記載が。当時から祭礼に鬼がいたことがわかります。平安の頃から鬼たちは祭りを支えてきたのです。

山崎 敬子 / Yamazaki keiko
実践女子大学院文学研究科美術史学専攻修士課程卒。大学在学時から折口信夫の民俗芸能学を学び、全国の祭礼を見て歩く。有明教育芸術短期大学子ども教育学科非常勤講師(民俗学)や早稲田大学メディア文化研究所招聘研究員などを経て、現在は、玉川大学芸術学部パフォーミング・アーツ学科講師(民俗芸能論)や学習院さくらアカデミー講師ほか。また、民俗芸能を地域資産として活かすべく、(株)オマツリジャパンなどで地域活性に取り組んでいる。
著作例:
編集:『年中行事辞典』(三隅治雄・編/東京堂出版 2007年)、
共著:『メディアの将来像』(メディア文化研究所・編/一藝社2014年)
著書:『にっぽんオニ図鑑』(じゃこめてい出版 2019年)
脚本:朗読劇『イナダヒメ語り』(武蔵一宮氷川神社 2018年)
コラム:オニ文化コラム(社)鬼ごっこ協会 毎月更新)、山崎先生の民俗学(ミドルエッジ)、にほん風習風土記(陸上自衛隊)、氷川風土記(武蔵一宮氷川神社)