2024.4.5

『オニ文化コラム』Vol,105

 
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術学部講師

 
岡山県と広島県のかつての備中国、備後国、美作国を中心とする地域の、荒神をまつる神楽のことを「荒神神楽」と言います。また、荒神には竈神や屋敷神,同族神などさまざまありますが、いずれも荒々しい神で,少しでも祭りを怠るとたたりをなすとされています。
 
荒神神楽のひとつに広島県庄原市に伝わる「比婆荒神神楽(ひばこうじんかぐら)」があります。比婆山の麓に分け入った集落に連綿と伝わり、託宣(人の口を借りて告げる神の意思)の神事を伝えるという、全国でも稀な、この神楽は「荒神信仰による採物神楽の一種であり、採物神楽の一つとして地方的特色が顕著で重要なものである」として、国が重要無形民俗文化財に指定しています。
 
広島県は実は神楽が多い県でもありまして、この神楽の他にも、例えば広島、廿日市市など瀬戸内海沿岸部には「十二神祇神楽」が伝わっております。広島県芸北地域にあった古い神楽が、江戸時代の終わりごろから明治にかけてこの地域に伝えられ爆発的に広まったもので、十二神祇神楽を今につたえる阿刀神楽(広島市安佐南区)・水内神楽(広島市佐伯区)・原神楽(廿日市市)・津田神楽(廿日市市)は広島県無形民俗文化財に指定されています。
 
さておきこの「十二神祇神楽」。12演目で構成することが名前の由来ですが、十二神祇神楽の中で最も豪華勇壮な舞「荒平の舞」が特に有名です。これは、十二神祇神楽のハイライトで舞われ、地域によって世鬼の舞、関の舞、鬼神、柴鬼神など名称は異なります。いずれも大きな面を着けた鬼「荒平(あらひら)」が持つ若返りや再生をもたらす杖を、問答の末、太夫が取り上げます。そして荒神の魔力を象徴する鬼の棒と、正義を象徴する太夫の剣を交換し、荒平はよき神となって天下泰平・五穀豊穣を祈って舞う…という内容で、荒平の舞と同系統の演目が、出雲では「山の神」、石見では「道返し」という名で演じられています。

また、長崎県五島市・巖立神社に伝わる、畳二畳分の板張りの上で舞う「五島神楽」(国指定重要無形民俗文化財)にも、鬼の面を着けた「荒平舞」があります。あら、ここにも。

ここでの鬼は良い存在です。ぜひ一度現地で御覧くださいませ。

 

山崎 敬子 / Yamazaki keiko

実践女子大学院文学研究科美術史学専攻修士課程卒。大学在学時から折口信夫の民俗芸能学を学び、全国の祭礼を見て歩く。有明教育芸術短期大学子ども教育学科非常勤講師(民俗学)や早稲田大学メディア文化研究所招聘研究員などを経て、現在は、玉川大学芸術学部パフォーミング・アーツ学科講師(民俗芸能論)や学習院さくらアカデミー講師ほか。また、民俗芸能を地域資産として活かすべく、(株)オマツリジャパンなどで地域活性に取り組んでいる。


著作例:
編集:『年中行事辞典』(三隅治雄・編/東京堂出版 2007年)、
共著:『メディアの将来像』(メディア文化研究所・編/一藝社2014年)
著書:『にっぽんオニ図鑑』(じゃこめてい出版 2019年)
脚本:朗読劇『イナダヒメ語り』(武蔵一宮氷川神社 2018年)
コラム:オニ文化コラム(社)鬼ごっこ協会 毎月更新)、山崎先生の民俗学(ミドルエッジ)、にほん風習風土記(陸上自衛隊)、氷川風土記(武蔵一宮氷川神社)