2024.3.4

『オニ文化コラム』Vol,104

 
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術学部講師

 
2月17日、愛知県岡崎市で三河路に春を呼ぶ天下の奇祭として知られる「瀧山寺 鬼祭り」が行われました。


この祭りは鎌倉時代から800年続く、天下泰平・五穀豊穣のお祭り。旧暦の正月元旦から始まる修正会の結願日にあたる旧暦正月7日目の晩(現在は旧暦正月7日に近い土曜日)に催されます。
 
先に書きました通り祭りの起源は鎌倉時代で、源頼朝の祈願から始まったと伝わっていますが、室町末期に一度廃絶しました。その後、徳川三代将軍家光が境内に家康公を祀る東照宮を建立し、幕府の行事として復活。その後、明治初期に再び中断されたものの、1888年に再度復活し、今に至るという、波乱万丈な歴史を持つ祭礼でもあります。


そして「鬼祭り」ですから、鬼が主役。瀧山寺の鬼たちは一般的な節分の鬼と異なり、邪鬼を祓う鬼神です。祭礼ではでは鬼神の面をかぶった「冠面者」が主役になり、「孫面」「祖父面」「祖母面」の3面が現存します。孫と祖父母…父母はどうした?と思われると思いますが、その通りで、かつては「父面」と「母面」もあったそうです。これには伝説がありまして、ある日2人の旅の僧が禊をせずに面をつけたところ、面が取れなくなりそのまま亡くなってしまったそうで、この二人を薬師堂前に鬼塚として供養したため、2つの面がなくなったと言われています。そのため、祭礼では「鬼塚供養(豆まき)」という行事もあり、面が取れず亡くなった2人の僧を供養した鬼塚へ炒った五穀を撒いて供養します。塚の上に撒く際、「春秋の芽の生うる時出で来たれ」というとのこと。五穀豊穣への祈りを感じます。
 
さて、鬼役を務める者は祭礼前からの準備も大切。鬼面を被る者は7日間、斎戒沐浴して別室で起居するそうです。女性との接触は禁止され、四足動物の肉を口にしないなどの戒律があり、炊事なども男の手によってなされます。
 
そのように準備を整えて行われる鬼祭りのクライマックスは「火まつり」。本堂に30を超える巨大な松明を持ち込んで、半鐘やほら貝をかき鳴らしながら鬼が乱舞します。祖父面・祖母面・孫面をつけた鬼が、燃え盛る炎の中から鏡餅を持って登場し、天下泰平・五穀豊穣を約束するのです。

鬼が春を呼ぶのです。

 

山崎 敬子 / Yamazaki keiko

実践女子大学院文学研究科美術史学専攻修士課程卒。大学在学時から折口信夫の民俗芸能学を学び、全国の祭礼を見て歩く。有明教育芸術短期大学子ども教育学科非常勤講師(民俗学)や早稲田大学メディア文化研究所招聘研究員などを経て、現在は、玉川大学芸術学部パフォーミング・アーツ学科講師(民俗芸能論)や学習院さくらアカデミー講師ほか。また、民俗芸能を地域資産として活かすべく、(株)オマツリジャパンなどで地域活性に取り組んでいる。


著作例:
編集:『年中行事辞典』(三隅治雄・編/東京堂出版 2007年)、
共著:『メディアの将来像』(メディア文化研究所・編/一藝社2014年)
著書:『にっぽんオニ図鑑』(じゃこめてい出版 2019年)
脚本:朗読劇『イナダヒメ語り』(武蔵一宮氷川神社 2018年)
コラム:オニ文化コラム(社)鬼ごっこ協会 毎月更新)、山崎先生の民俗学(ミドルエッジ)、にほん風習風土記(陸上自衛隊)、氷川風土記(武蔵一宮氷川神社)