2024.2.12

『オニ文化コラム』Vol,103

 
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術学部講師

 
本年最初のコラムは節分の風習から。
 
季節の変わり目には邪気(鬼)が生じると信じられていたため、それを追い払うための悪霊ばらいが年中行事として宮中で行われ、それが現在の節分にまで変容して継承されているのですが、平安時代の様子は現在とは異なっていました。例えば『延喜式』によると、彩色した土で作成した牛と童子の人形を大内裏の各門に飾っていました。当時は陰陽師が土偶と、土牛を立て流行病を払うまじないを行ったので「土牛童子像を立つ」という言葉も現在に伝わっております。
 
さておき、節分は長い時をへて全国に伝播する過程で地域色を持つようになります。

「鬼ぐい」をご存じでしょうか?愛媛県にご縁がある方ならご存じかもしれませんが、関東在住の方は知らないのでは。

 
「鬼ぐい」とは、愛媛県・今治にて、小正月(1月15日)から節分まで玄関の戸口にタラの木にトベラや柊の葉をはさんだものを魔除けとして飾る風習のことです。山口県の瀬戸内地域にもタラノキや山椒の枝にトベラやすすきを挿す同様の習慣があるそうですが、今回はこの今治の風習に注目。


文献にはどう紹介されているか、その一例を紹介します。『今治郷土史 国府叢書 資料編 近世2(第四巻)』(1989年/)今治郷土史編さん委員会編/「国府叢書 巻二十三」p1022所収)に“鬼グイ(方言ニシテ多羅)ト塩漬鰯ヲ小サク切リテ、豆柴(方言木葉ニシテ火ニ入ルレハハリハリ云フ)ニ包ミ……”と記されています(※「今治城スタッフブログ」より引用)。
 
現在でも、地域のスーパーなどに今の時期に「鬼ぐい」「鬼の目突き」などとして一本30~70円ほどで販売されております。それに煮干しをくくりつけているものもあるそうですが、いずれにせよタラノキやヒイラギの刺,トベラの葉の癖のある臭いで鬼を追い払うと信じられています。
 
ちなみに先の文献に「豆柴」という言葉がでてまいりますが、こちらはトベラの葉のこと。現地ではトベラの葉を通称で「豆柴」というそうです。現代社会では「豆柴」というと柴犬を連想されるかと思いますが、ここでいう「豆柴」は葉っぱなのです。

地域色があるということは、それだけ「節分」が全国各地で大切にされた証ですね。

 
 

山崎 敬子 / Yamazaki keiko

実践女子大学院文学研究科美術史学専攻修士課程卒。大学在学時から折口信夫の民俗芸能学を学び、全国の祭礼を見て歩く。有明教育芸術短期大学子ども教育学科非常勤講師(民俗学)や早稲田大学メディア文化研究所招聘研究員などを経て、現在は、玉川大学芸術学部パフォーミング・アーツ学科講師(民俗芸能論)や学習院さくらアカデミー講師ほか。また、民俗芸能を地域資産として活かすべく、(株)オマツリジャパンなどで地域活性に取り組んでいる。


著作例:
編集:『年中行事辞典』(三隅治雄・編/東京堂出版 2007年)、
共著:『メディアの将来像』(メディア文化研究所・編/一藝社2014年)
著書:『にっぽんオニ図鑑』(じゃこめてい出版 2019年)
脚本:朗読劇『イナダヒメ語り』(武蔵一宮氷川神社 2018年)
コラム:オニ文化コラム(社)鬼ごっこ協会 毎月更新)、山崎先生の民俗学(ミドルエッジ)、にほん風習風土記(陸上自衛隊)、氷川風土記(武蔵一宮氷川神社)