2023.11.05

『オニ文化コラム』Vol,101

 
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術学部講師

 
10月22日、岡山県井原市井原町で鬼だらけのお祭り「井原町の秋祭」がありました。
 
この井原町の秋祭の別名は「鬼まつり」。約100匹もの鬼たちが御神幸の先払いを務めます。この祭りでは1年間の家内安全を願って鬼のタスキや槍先にさした御幣を奪うと無病息災の御利益があると言われていました(今は争奪することなく、神社で頂くことができます)。
 
以前は各地区で御神幸が行おこなわれていましたが、そもそも文政5年(1822)から毎年行おこなわれることとなった記録が残のこっているそうです。ですが戦後に鬼の出場者が次第に減少してしまい、その後平成になってから、井原公民館を中心に各種団体が協力して、鬼まつりパレードと交通安全推進啓発パレードを一体として実施するようになり今に至るのだとか。
 
そのような鬼まつりですが、祭礼当日には井森神社の氏子地域の各地区ごとにこども神輿が町内を巡り、午後に入ってから、いよいよ御神幸が神社を出発します。一行は商店街のある本通を南へと練り歩きますが、杖の先や腰に御幣を挿した鬼たちが観衆を怖がらせながら先頭を行き、続く大人神輿が威勢良く沿道を賑わせ、お社へ帰って来ます。
 
そして、この鬼まつりの鬼たちは地域活性にも貢献しています。
今年は地域の商店やアーティスト・小中学生と協力してアート作品やパフォーマンス、食で新しい鬼を表現するイベント「シン・鬼まつり」が開催され、来場者は昭和レトロ感ある商店街を舞台にアートや食を楽しんだそうです。そのほか「楽画鬼(ラクガキ)まつり」や「鬼石さがし」など鬼づくしな企画まで。鬼まみれです。
 
最後に。井原市はある著名戦国武将が生まれた場所でもあります。戦国時代の岡山(備中)で活躍した武将を連想しそうですが、実はそうではなく、北条早雲(伊勢新九郎・伊勢宗瑞 康正2年(1456)? ~ 永正16年(1519))!北条早雲は市内にある山陽道の要害地・高越山城がある井原で伊勢盛定の息子として生まれ、青年期を過ごします。その後伊豆平定や小田原城奪取、相模平定を経て、関東の雄「後北条氏」の礎となるのです。
 
戦国時代にその名を轟かせた北条早雲が生まれた場所に鬼がいる…なんとなくロマンを感じます。
 

山崎 敬子 / Yamazaki keiko

実践女子大学院文学研究科美術史学専攻修士課程卒。大学在学時から折口信夫の民俗芸能学を学び、全国の祭礼を見て歩く。有明教育芸術短期大学子ども教育学科非常勤講師(民俗学)や早稲田大学メディア文化研究所招聘研究員などを経て、現在は、玉川大学芸術学部パフォーミング・アーツ学科講師(民俗芸能論)や学習院さくらアカデミー講師ほか。また、民俗芸能を地域資産として活かすべく、(株)オマツリジャパンなどで地域活性に取り組んでいる。


著作例:
編集:『年中行事辞典』(三隅治雄・編/東京堂出版 2007年)、
共著:『メディアの将来像』(メディア文化研究所・編/一藝社2014年)
著書:『にっぽんオニ図鑑』(じゃこめてい出版 2019年)
脚本:朗読劇『イナダヒメ語り』(武蔵一宮氷川神社 2018年)
コラム:オニ文化コラム(社)鬼ごっこ協会 毎月更新)、山崎先生の民俗学(ミドルエッジ)、にほん風習風土記(陸上自衛隊)、氷川風土記(武蔵一宮氷川神社)