2023.8.19

『オニ文化コラム』Vol,99

 
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術学部講師

 
今夏も暑かった…。土用の丑の日にウナギを食べて夏を乗り切った人も多かったかと思います。
 
ところで鬼にかかわりがあるウナギが居ることをご存じでしょうか。
 
それは岐阜県郡上市に鎮座する、高賀山を囲む高賀六社の一社・星宮神社(ほしのみやじんしゃ)に。星宮神社はぜんそくや眼病に御利益があると言われる神社として知られる神社ですが、「うなぎ伝説ゆかりの地」としても有名な神社です。
 
この伝説が、実は鬼退治の伝説なのです。
どのような伝説かといいますと、平安時代に藤原高光(ふじわらのたかみつ 天慶2年(939)?~正暦5年(994))が鬼(妖怪)退治に赴いたものの道がわからなくなった際、神社の横を流れる長良川の支流の粥川のうなぎが高光に正しい道を教え、結果、高光は無事に鬼退治ができました…というもの。
※一説には鬼ではなく妖怪「さるとらへび」ともありますが、星宮神社では妖怪ではなく鬼と伝わっています。

 
そもそも、先に「高賀山を囲む高賀六社」と書きましたが、この山と六社自体が伝承を持つ地域。先の「星宮神社」に残る星宮神社縁起(経聞坊蔵)や高賀宮記録(高賀神社蔵)などによれば、霊亀年間(715年~717年)に、福部岳(瓢ヶ岳)に容姿・啼声が牛に似た妖魔が住み村人に危害を加えたため、養老元年(717年)に勅命を受けた藤原高光が、高賀山の麓に国常立尊・国狭槌尊等の諸神を祀り、その加護を受けて妖魔を退治します。しかし、その後も妖魔の亡霊が出現したため、虚空蔵菩薩を祀り、その加護でいよいよ退治。その後、高光は退魔随縁の6ヵ所に神社(六社)を建立しました。この六社が現在の高賀神社、郡上市八幡の本宮神社、新宮神社、同美並の星宮神社、美濃市瀧神社、金峰神社とされています。
 
さて、そんな訳で高光の鬼退治を助けたウナギを以後、粥川の人々は敬うようになり、氏子はウナギを食べないように。住民の手厚い保護の結果、粥川にすむウナギは人間の与える餌を食べる習性をもつようになりました。
 
さらに、このウナギたちが生息する地域は「粥川ウナギ生息地」として、大正13年(1924年)に国の天然記念物に指定されています。鬼退治のウナギが天然記念物。地味にすごい気がしますね。
 
 

山崎 敬子 / Yamazaki keiko

実践女子大学院文学研究科美術史学専攻修士課程卒。大学在学時から折口信夫の民俗芸能学を学び、全国の祭礼を見て歩く。有明教育芸術短期大学子ども教育学科非常勤講師(民俗学)や早稲田大学メディア文化研究所招聘研究員などを経て、現在は、玉川大学芸術学部パフォーミング・アーツ学科講師(民俗芸能論)や学習院さくらアカデミー講師ほか。また、民俗芸能を地域資産として活かすべく、(株)オマツリジャパンなどで地域活性に取り組んでいる。


著作例:
編集:『年中行事辞典』(三隅治雄・編/東京堂出版 2007年)、
共著:『メディアの将来像』(メディア文化研究所・編/一藝社2014年)
著書:『にっぽんオニ図鑑』(じゃこめてい出版 2019年)
脚本:朗読劇『イナダヒメ語り』(武蔵一宮氷川神社 2018年)
コラム:オニ文化コラム(社)鬼ごっこ協会 毎月更新)、山崎先生の民俗学(ミドルエッジ)、にほん風習風土記(陸上自衛隊)、氷川風土記(武蔵一宮氷川神社)