2023.7.4

『オニ文化コラム』Vol,97

 
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術学部講師

 
一大ブームとなった吾峠呼世晴氏の漫画『鬼滅の刃』には鬼退治専門の集団「鬼殺隊」が登場しますが、平安時代の日本にも鬼退治をした伝説を持つ実在の人物たちがいます。
 
平安時代、京都・大江山を拠点にする鬼・酒呑童子を退治した源頼光と、頼光配下の「四天王」(渡辺綱、坂田金時、碓井貞光、卜部季武)そして藤原保昌です。
 
源頼光が酒呑童子を退治した際、その首を斬り落とすのに用いた太刀・童子切安綱は現在、国宝「太刀銘安綱(名物童子切安綱)」として東京国立博物館の所有となっています。また、四天王の1人・渡辺綱が一条戻橋で鬼の腕を斬った太刀・髭切は、その逸話から「鬼切」「鬼切安綱」「鬼切丸」などと呼ばれ、髭切に仮託される実在の日本刀は国指定重要文化財に指定されており、こちらは現在は北野天満宮の所有となっています。
 
これら鬼に関わる2振を作刀したのは大原安綱。平安時代中期に活躍した伯耆国(現在の鳥取県)の刀工で、在銘現存作のある刀工としては最初期の人物の一人です。そのため「刀工の祖」とも称えられます。
 
ところで数ある日本刀の中で特に最高傑作といわれる5振を「天下五剣」と呼ぶのですが、5振の筆頭こそ、この「童子切安綱」!さらに言うと、この5振の中には鬼由来のものが他に、もう一振あります。
 
天下五剣は
■「童子切安綱」(どうじぎりやすつな)
■「三日月宗近」(みかづきむねちか)
■「鬼丸国綱」(おにまるくにつな)
■「大典太光世」(おおでんたみつよ)
■「数珠丸恒次」(じゅずまるつねつぐ)
の、5振です。
 
5振の中に「鬼」に関わりがあるのが2振あることにお気づきになるかと思います。
 
そう、先に紹介した「童子切安綱」ともうひとつ、「鬼丸国綱」(粟田口国綱による作刀)です。
 
鬼丸国綱は鎌倉幕府5代執権・北条時頼を苦しめていた鬼を退治した日本刀です。由来もさることながら所有者が凄まじく、北条時頼→新田義貞→斯波高経→足利家→織田信長→豊臣秀吉→徳川家康→皇室となっています。錚々たるメンバーです。
ちなみに、天下五剣の中で御物(皇室の所有品)となっているのは鬼丸国綱のみ。皇室が所有しているため一般公開されることは稀です。いつか見たい…
 

山崎 敬子 / Yamazaki keiko

実践女子大学院文学研究科美術史学専攻修士課程卒。大学在学時から折口信夫の民俗芸能学を学び、全国の祭礼を見て歩く。有明教育芸術短期大学子ども教育学科非常勤講師(民俗学)や早稲田大学メディア文化研究所招聘研究員などを経て、現在は、玉川大学芸術学部パフォーミング・アーツ学科講師(民俗芸能論)や学習院さくらアカデミー講師ほか。また、民俗芸能を地域資産として活かすべく、(株)オマツリジャパンなどで地域活性に取り組んでいる。


著作例:
編集:『年中行事辞典』(三隅治雄・編/東京堂出版 2007年)、
共著:『メディアの将来像』(メディア文化研究所・編/一藝社2014年)
著書:『にっぽんオニ図鑑』(じゃこめてい出版 2019年)
脚本:朗読劇『イナダヒメ語り』(武蔵一宮氷川神社 2018年)
コラム:オニ文化コラム(社)鬼ごっこ協会 毎月更新)、山崎先生の民俗学(ミドルエッジ)、にほん風習風土記(陸上自衛隊)、氷川風土記(武蔵一宮氷川神社)