2023.4.29

『オニ文化コラム』Vol,95

 
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術学部講師

 
日本の盗賊というと、おそらく「石川五右衛門」(弘治4(1558)年?~文禄3(1594)年)が最も有名かと思います。安土桃山時代の盗賊で、文禄3年に捕えられ京都三条河原で一子と共に処刑された人物です。江戸時代には伝説の大泥棒として認知され、数多くの創作作品が生まれました。現代では、漫画『ルパン三世』の石川五右衛門のモデルとしても知られています。
 
さて、そんな江戸時代。実は江戸時代後期に、同じく伝説と化した女盗賊がいます。「鬼神のお松」です。歌舞伎・読本・錦絵などでは先の石川五右衛門、自来也(江戸時代後期の読本に登場する架空の盗賊・忍者。児雷也とも)と並び、「日本三大盗賊」として描かれる存在です。
 
鬼神のお松は文化・文政年間(1803~30)に越後の笠松峠に根城を置き、夫のために悪事を働いたとされます。天明3(1783)年に討たれ、死後は小説、戯曲、講談、ちょんがれ節などに取りあげられるように。歌舞伎「新板越白浪」(嘉永4(1851)年、江戸市村座初演)が有名です。
 
変わったところでは、富山県にも。県内で一番早い春祭りといわれる魚津市小川寺地区の3月の春の祭礼で行われる獅子舞「小川寺の獅子舞」に鬼神のお松が登場します(※小川寺の獅子舞は「火祭り」と「春秋の祭礼」に千光寺観音堂内で奉納されます)。


この獅子舞は神仏混淆古い様式を残していることでも知られ、神主、宮総代が従って、神輿が千手観音堂の周りを7回半まわります。この時に、獅子、天狗、2つのばば面、1つのあねま面が露払いを行うのですが、ばば面とあねま面は実在した人物。推定ではばば面が「森木三右ヱ門」と「十王堂六兵衛」といわれた豪傑、あねま面が鬼神のお松と言われています。祭礼にも扱うほど認知されていたことがうかがえます。
 
そんなお松ですが、実は昨年まで連載された大人気漫画『ゴールデンカムイ』(野田サトル・著/集英社・発行 2014年8月~2022年4月)に登場します。同漫画に登場する女盗賊「蝮のお銀」のモデルのひとりがお松なのです。月岡芳年の浮世絵「鬼神於松四郎三郎を害す図」(明治19(1886)年)を連想させるシーンが漫画にも描かれております。是非、漫画を読んでご確認くださいませ♪
 

山崎 敬子 / Yamazaki keiko

実践女子大学院文学研究科美術史学専攻修士課程卒。大学在学時から折口信夫の民俗芸能学を学び、全国の祭礼を見て歩く。有明教育芸術短期大学子ども教育学科非常勤講師(民俗学)や早稲田大学メディア文化研究所招聘研究員などを経て、現在は、玉川大学芸術学部パフォーミング・アーツ学科講師(民俗芸能論)や学習院さくらアカデミー講師ほか。また、民俗芸能を地域資産として活かすべく、(株)オマツリジャパンなどで地域活性に取り組んでいる。


著作例:
編集:『年中行事辞典』(三隅治雄・編/東京堂出版 2007年)、
共著:『メディアの将来像』(メディア文化研究所・編/一藝社2014年)
著書:『にっぽんオニ図鑑』(じゃこめてい出版 2019年)
脚本:朗読劇『イナダヒメ語り』(武蔵一宮氷川神社 2018年)
コラム:オニ文化コラム(社)鬼ごっこ協会 毎月更新)、山崎先生の民俗学(ミドルエッジ)、にほん風習風土記(陸上自衛隊)、氷川風土記(武蔵一宮氷川神社)