2023.3.28

『オニ文化コラム』Vol,94

 
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術学部講師

 
愛知県東三河、静岡県遠州、長野県南信州の3地域からなる三遠南信地域は、民俗芸能の宝庫で、湯立神楽や田楽など中世の香りを今に伝える民俗芸能が多く伝わっており、民俗芸能を勉強しようと思ったら必ず一度ならず何度も足を踏み入れる地域です。
 
前回お伝えした愛知県豊橋市の安久美神戸神明社で行われる「鬼祭」はじめ豊川・天竜川水系には多くの民俗芸能が残っており、鬼が登場する祭も多く残っています。
 
たとえば4月に入ると、豊橋市内唯一の式内社である石巻神社の春祭り(正式には石巻神社下宮春季大祭)に赤と黒の鬼が登場します。祭礼では会場で鬼がタンキリ飴と粉をまきます。地域では、この粉を浴びてタンキリ飴を食べると厄除けとなり、夏病みしないとされています。
 
この祭りは鬼が出ることから「鬼祭り」とも。起源を示す資料は現存していませんが、源頼朝の病気回復祈願のお礼参りに鬼面が奉納された事からはじまったという話もあり、鎌倉時代から伝わったとも。古くより地域に鬼がいたことがうかがえます。
 
豊川は、安久美神戸神明社や石巻神社以外にも、長楽正八幡社、高井正八幡社、太田神社、賀茂神社・長瀬素盞嗚神社、下条素盞嗚神社、御幸神社などに鬼が登場しますので、もはや鬼の街ですね!
 
話を戻し、三遠南信地域の民俗芸能には、他にも鬼が。
遠州地域につたわる「ひよんどり」「おくない」にも鬼が登場します。これらは田の実りのための芸能「田楽」の流れをくむ民俗芸能で、田楽の演目に火を使う舞(踊り)があるので「ひよんどり、苗作りから収穫まで「おこなう」を語源とするので「おくない」と言われます。ここにも鬼が登場しまして、例えば静岡県浜松市の寺野に伝わる「寺野ひよんどり」(1月)には「鬼の舞」が。「鬼の舞」では赤、黒、青の鬼の3兄弟が現れて激しく踊り、「ホーッホッ」などと奇声を上げながら、本堂の床に放たれたたいまつの炎を斧や槌を乱打して消すと、火の粉が鮮やかに飛び散ります。
 
鬼祭の鬼や、田楽に出てくる鬼。いずれも悪い存在ではありません。厄除けや、鬼の霊力をもって、稲に害をなす悪霊を追い払い豊かな実りを期待させてくれる…地域にとっては良い存在です。
 

山崎 敬子 / Yamazaki keiko

実践女子大学院文学研究科美術史学専攻修士課程卒。大学在学時から折口信夫の民俗芸能学を学び、全国の祭礼を見て歩く。有明教育芸術短期大学子ども教育学科非常勤講師(民俗学)や早稲田大学メディア文化研究所招聘研究員などを経て、現在は、玉川大学芸術学部パフォーミング・アーツ学科講師(民俗芸能論)や学習院さくらアカデミー講師ほか。また、民俗芸能を地域資産として活かすべく、(株)オマツリジャパンなどで地域活性に取り組んでいる。


著作例:
編集:『年中行事辞典』(三隅治雄・編/東京堂出版 2007年)、
共著:『メディアの将来像』(メディア文化研究所・編/一藝社2014年)
著書:『にっぽんオニ図鑑』(じゃこめてい出版 2019年)
脚本:朗読劇『イナダヒメ語り』(武蔵一宮氷川神社 2018年)
コラム:オニ文化コラム(社)鬼ごっこ協会 毎月更新)、山崎先生の民俗学(ミドルエッジ)、にほん風習風土記(陸上自衛隊)、氷川風土記(武蔵一宮氷川神社)