2022.10.29

『オニ文化コラム』Vol,90

 
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術学部講師

 
10月22~23日、埼玉県指定無形民俗文化財「浦山の獅子舞」が3年ぶりに開催されました。白刃の真剣をくわえた獅子たちが荒々しく舞うその姿は圧巻でした。
 
これは秩父さくら湖の奥にある浦山の大日堂の縁日に舞われる獅子舞で、3匹1組で舞うことから「三匹獅子舞」と言われるものです。初日は大日堂で午前中「剣がかり」を、大日堂の納経所である昌安寺では「花がかり」「大狂い」が舞われ、午後に昌安寺の獅子が大日堂の獅子と合流し祈願の獅子舞が行われます。翌日は午後から祈願の獅子舞が舞われ、その後希望者の家に行き悪魔祓いが行われます。
 
このコラムでは、この「悪魔祓い」をご紹介いたします。
異形の鬼たちが山里の家々を巡って災厄を払う民俗行事でして、鬼が登場します。笛や太鼓、花笠、獅子、鬼の行列が大日堂を出発し、祈願を頼んだ家を次々と訪問します。その後、獅子(三匹獅子舞)が家に入り、座敷の中心に集まって座る家人達を囲むように舞います。その後、鬼たちが竹をたたいて、「悪魔祓い~!」と大声を張り上げながら、家人たちの周囲をぐるぐる回ります。家人の中に幼いお子さんがいると、ここで泣き出すこと必至です。そうして鬼たちがひとしきり回り立ち去った最後に、アシビの木を持った将鬼(しょうき)大明神が登場し、家内安全や無病息災などの言葉を唱えてくださいます。
 
この悪魔祓いには4人の鬼役と大将格の将鬼大明神役が登場します。境内に張られていたしめ縄やしめ飾りを身にまとい、赤や白、黒色などで顔を塗りたくった姿ですが、家内安全などのためにくる善い存在。
 
 子供が怖さで泣く風景は秋田県男鹿の「なまはげ」に似ているかもしれません。家に入って竹をバンバンと叩く姿は佐賀県の「かせどり」も思い出します。どちらも地域で大切にされる神様ですが、浦山の悪魔祓いも同様に地域で大切に継承されております。
 
最後に、この地区に作られた浦山ダム(ダム湖はさくら湖)について。
 
ダム×グルメというと「ダムカレー」が有名ですが、こちらのダムには「ダムラーメン」なるグルメもあるそうです。このダム建設に伴い49戸の住居が水没しておりますので、その歴史も忘れてはいけないと思います。
 

山崎 敬子 / Yamazaki keiko

実践女子大学院文学研究科美術史学専攻修士課程卒。大学在学時から折口信夫の民俗芸能学を学び、全国の祭礼を見て歩く。有明教育芸術短期大学子ども教育学科非常勤講師(民俗学)や早稲田大学メディア文化研究所招聘研究員などを経て、現在は、玉川大学芸術学部パフォーミング・アーツ学科講師(民俗芸能論)や学習院さくらアカデミー講師ほか。また、民俗芸能を地域資産として活かすべく、(株)オマツリジャパンなどで地域活性に取り組んでいる。


著作例:
編集:『年中行事辞典』(三隅治雄・編/東京堂出版 2007年)、
共著:『メディアの将来像』(メディア文化研究所・編/一藝社2014年)
著書:『にっぽんオニ図鑑』(じゃこめてい出版 2019年)
脚本:朗読劇『イナダヒメ語り』(武蔵一宮氷川神社 2018年)
コラム:オニ文化コラム(社)鬼ごっこ協会 毎月更新)、山崎先生の民俗学(ミドルエッジ)、にほん風習風土記(陸上自衛隊)、氷川風土記(武蔵一宮氷川神社)