2022.6.29

『オニ文化コラム』Vol,86

 
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術学部講師

 
今夏はすでに酷暑の予感がしておりますが、そも、夏の民俗芸能といえば盆踊りが一番有名ですが鬼もいますので、夏の鬼をご紹介したく思います。
 
 夏の民俗芸能は「風流(フリュウ)」の芸とも言われるほど、華やかな様相を呈しております。「風流」は万葉集では「ミヤビ」と読まれておりますが、平安の頃あたりから、祭礼で用いられる山車や装束などに施された華美な趣向を指して「フリュウ」と表現していたようです。さらに、『梁塵秘抄口伝集』には久寿元年(1154年)の今宮社御霊会において傘の上に風流な飾りの花を掲げて唄い囃した「風流(フウリヤウ)のあそび」をしたと書かれております。
 
 この御霊会といいますのは、疫病や災害をもたらすとされる不慮の死を遂げた方々(怨霊)を鎮送するための行事です。貞観5年(863年)に神泉苑で行われた御霊会では早良親王などの御霊がまつられております。後に各地の寺社で同様の行事が開催されて神輿渡御などの行列や風流・田楽と呼ばれる踊りなども加えられ、時期も疫病が多発する旧暦の5月~8月に集中するようになりました。そして、鎮送の際の芸能は華やかなことも多く、結果として夏の民俗芸能は「風流(フリュウ)」の芸とも言われるわけです。盆踊りもこれに含まれます。
そんなフリュウと鬼が合体した芸能が九州にあります。佐賀県に伝わる県指定重要無形文化財「面浮立」です(9月頃)。「浮立」という名称は、佐賀県と長崎県の陸部、いわゆる旧肥前国に分布しており、「フリュウ」の音に重きを置いていたことがうかがえます。
 
 
 五穀豊穣を感謝し、雨乞祈願や怨霊鎮魂、要するに悪霊退散を神に祈願しようという意味があるとも言われるこの芸能、体の前面に鼓を持ち、鉦(かね)や太鼓の音が響く中で踊る鬼面芸です。そして鬼の顔をした面を「浮立面」といいます。なぜ鬼の面を使うのか・・・諸説があり答えは未だ定まっておりません。追儺(ついな。鬼追い行事)の面であったとも言われております。しかし、由来は分からずとも、夏がきたら佐賀県のどこかで鬼が御霊鎮送のために踊っております。
 
 
 列をなした複数人の鬼がシャグマをがぶって踊る佐賀の祭りをぜひ一度ご覧くださいませ。
 

山崎 敬子 / Yamazaki keiko

実践女子大学院文学研究科美術史学専攻修士課程卒。大学在学時から折口信夫の民俗芸能学を学び、全国の祭礼を見て歩く。有明教育芸術短期大学子ども教育学科非常勤講師(民俗学)や早稲田大学メディア文化研究所招聘研究員などを経て、現在は、玉川大学芸術学部パフォーミング・アーツ学科講師(民俗芸能論)や学習院さくらアカデミー講師ほか。また、民俗芸能を地域資産として活かすべく、(株)オマツリジャパンなどで地域活性に取り組んでいる。


著作例:
編集:『年中行事辞典』(三隅治雄・編/東京堂出版 2007年)、
共著:『メディアの将来像』(メディア文化研究所・編/一藝社2014年)
著書:『にっぽんオニ図鑑』(じゃこめてい出版 2019年)
脚本:朗読劇『イナダヒメ語り』(武蔵一宮氷川神社 2018年)
コラム:オニ文化コラム(社)鬼ごっこ協会 毎月更新)、山崎先生の民俗学(ミドルエッジ)、にほん風習風土記(陸上自衛隊)、氷川風土記(武蔵一宮氷川神社)