2022.5.29

『オニ文化コラム』Vol,85

 
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術学部講師

 
鬼の話というと、浜田廣介さんが書いた児童文学「泣いた赤鬼」が有名です。この話は、村人たちとどうしても仲良くなりたい赤鬼が、自分を怖がって逃げまわる村人を前に孤独と寂しさに耐えきれなくなり、親友の青鬼に相談するところから始まります。青鬼は赤鬼のために「自分が人間の村へ行って大暴れするから、そこに赤鬼が来てこらしめてくれれば人間たちは赤鬼が優しい鬼だと理解してくれる」として計画を実行。赤鬼は村人たちと仲良くなります。しかしその日を境に青鬼は姿を消します。「赤鬼くん、このまま僕と友達でいると、君も悪い鬼だと思われてしまう。僕は旅に出る。君のことは忘れない、いつまでも友達です」と書き残して。それを読んだ赤鬼は泣きました…というお話です。
 
青鬼といえば、滋賀県大津市にスギの葉で作られた高さ約5メートルの青鬼が主役の祭り「青鬼まつり」があります。
 
5月第3日曜日に同市の石山寺で行われる祭りで、12〜13世紀に寺の一切経や聖教の収集・整備に尽力された学僧朗澄(ろうちょう)律師が「死後は鬼の姿になって人々を守る」と誓って世を去った言い伝えに始まる祭礼です。この伝説は「石山寺縁起絵巻」第6巻にあります。
 
さておき祭礼では、寺の入り口に当たる東大門前にスギの葉で作った高さ約5メートルの青鬼像が出現します。軽トラ2台分の杉の葉を用いるそうで、よく見ると胸のあたりは茶色い。これ、実は胸毛を表現しているのだそうです。芸が細かいです。
 
祭礼には、この大きな青鬼像のほかに等身大の鬼たちも登場します。鬼たちは参道を出発し、青鬼像の待つ東大門前の広場へ向かいます。そこで青鬼法要を行ったあと、青鬼と蛍の精に扮した地元の若者らが、石山寺の第五十代座主が作詞した「青鬼おどりの唄」に合わせて金棒を打ち鳴らし、約15分間の踊りを披露します。舞の奉納後には、「降鬼招福」と書かれた青鬼団扇が配られます。
 
最後に、この祭りを行う石山寺について。石山寺は西国三十三所第13番札所のお寺ですが、それよりも「紫式部ゆかりの地」として、式部が源氏物語を起筆した寺としても有名です。世界最古の長編小説である源氏物語と鬼に接点があるのも面白いですね。

 

山崎 敬子 / Yamazaki keiko

実践女子大学院文学研究科美術史学専攻修士課程卒。大学在学時から折口信夫の民俗芸能学を学び、全国の祭礼を見て歩く。有明教育芸術短期大学子ども教育学科非常勤講師(民俗学)や早稲田大学メディア文化研究所招聘研究員などを経て、現在は、玉川大学芸術学部パフォーミング・アーツ学科講師(民俗芸能論)や学習院さくらアカデミー講師ほか。また、民俗芸能を地域資産として活かすべく、(株)オマツリジャパンなどで地域活性に取り組んでいる。


著作例:
編集:『年中行事辞典』(三隅治雄・編/東京堂出版 2007年)、
共著:『メディアの将来像』(メディア文化研究所・編/一藝社2014年)
著書:『にっぽんオニ図鑑』(じゃこめてい出版 2019年)
脚本:朗読劇『イナダヒメ語り』(武蔵一宮氷川神社 2018年)
コラム:オニ文化コラム(社)鬼ごっこ協会 毎月更新)、山崎先生の民俗学(ミドルエッジ)、にほん風習風土記(陸上自衛隊)、氷川風土記(武蔵一宮氷川神社)