2022.3.31

『オニ文化コラム』Vol,84

 
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術学部講師

 
華やかな衣装で着飾り、または仮装を身につけて、鉦や太鼓、笛などで囃し、歌い、おもに集団で踊る踊りのことを「風流(ふりゅう)」と言います。疫神を祓う祭や念仏、田楽などに起源をもつ芸能と考えられおり、時代が経つにつれ山車や、その周囲で踊った踊りを含めて「風流」と称するようになりました。
 
風流は全国各地に存在しますが、その中でも典型的と言われる、平安時代終わり頃から継承されてきたものが4月に行われる京都の「やすらい花」です。「やすらい花」は京都市の紫野や上賀茂など洛北の四地区に伝承され、春の桜花の季節に、花を飾った長柄の風流傘をおしたて、行列となって巡回し、笛と歌の伴奏に囃されながら、シャグマを冠った異装の者が、鉦・太鼓を打ちながら、町の辻々で踊りをくりひろげます。
 
このやすらい花は、疫神を鎮める祭りで鎮花祭でもあります。昔の日本人は春の花が飛散する時期は悪霊や疫神も共に飛び散って人々を悩ませると信じており、この時期に疫神を鎮めるために「鎮花祭」が行っておりました。やすらい花では人々は踊り狂いながら「やすらい(安らかに、の意)花や」と囃しながら悪いモノをもたらす神を送るのです。そして同時にその年の豊かな稲の実りを祈りました。
 
現在、地区によって公開される日が異なりますが、元々は三月十日各地区から行列を組み、町内を練りながら今宮神社に巡行していたそうです。各伝承地区それぞれの行列構成はありますが、総じて大ぶりの傘の周囲に緋色の布を垂らし、傘の頂部に生花を挿した花篭をのせた「風流傘(「傘ぼこ」、「花傘」)」に、頭にシャグマを冠った四人の踊り手(「鬼」、「大鬼」が居ます。そう、鬼です。神社の境内では、大鬼が大きな輪になってやすらい踊りを奉納します。桜の花を背景に神前へ向かい、激しく飛び跳ねるように、そしてまた緩やかに、「やすらい花や」の声に合わせて踊るその姿は「悪い鬼」ではなく、「悪いモノを祓う鬼」です。
 
そもそもこの祭りは平安時代後期、京都に疫病や災害が蔓延したため、これらを鎮め無病息災を祈願したものです。その祭礼の中に私足し人間側によりそってくれる日本的な良い鬼がいることにホッコリしますね。
 

山崎 敬子 / Yamazaki keiko

実践女子大学院文学研究科美術史学専攻修士課程卒。大学在学時から折口信夫の民俗芸能学を学び、全国の祭礼を見て歩く。有明教育芸術短期大学子ども教育学科非常勤講師(民俗学)や早稲田大学メディア文化研究所招聘研究員などを経て、現在は、玉川大学芸術学部パフォーミング・アーツ学科講師(民俗芸能論)や学習院さくらアカデミー講師ほか。また、民俗芸能を地域資産として活かすべく、(株)オマツリジャパンなどで地域活性に取り組んでいる。


著作例:
編集:『年中行事辞典』(三隅治雄・編/東京堂出版 2007年)、
共著:『メディアの将来像』(メディア文化研究所・編/一藝社2014年)
著書:『にっぽんオニ図鑑』(じゃこめてい出版 2019年)
脚本:朗読劇『イナダヒメ語り』(武蔵一宮氷川神社 2018年)
コラム:オニ文化コラム(社)鬼ごっこ協会 毎月更新)、山崎先生の民俗学(ミドルエッジ)、にほん風習風土記(陸上自衛隊)、氷川風土記(武蔵一宮氷川神社)