2022.1.30

『オニ文化コラム』Vol,82

 
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術学部講師

 
2022年最初の鬼文化コラムは、鬼たちの住処について。
 
鬼退治といえば桃太郎。桃太郎は鬼退治の際、鬼の住処である「鬼ヶ島」に向かいますが、鬼の住処ということでいうと、島以外にも、例えば城の名が残る場所が日本にはいくつか見られます。
 
たとえば、まず岡山県総社市の「鬼ノ城(きのじょう)」。ここは鬼城山(きのじょうさん)に築かれた日本の古代山城(神籠石式山城(こうごいししきやまじろ))です。
岡山には桃太郎伝説のルーツとなった、吉備津彦命(きびつひこのみこと)による地域の一族・温羅(うら)の退治が語り継がれていまして、その温羅の居城とされるのが鬼ノ城です。断崖絶壁に石垣がそそり立ち、眼下に総社平野を一望できる鬼ノ城に、実際に古代の一族が拠点を構えていたと思うと、ロマンを感じますね。
 
次は三重県から。同県熊野市木本町にある鬼ヶ城(おにがじょう)は海岸景勝地としても知られています。実際、国の名勝「熊野の鬼ケ城 附 獅子巖」(くまののおにがじょう つけたり ししいわ)の一部です。鬼ケ城のそばには熊野古道「松本峠」もあり、この峠を越えるとを越えると七里御浜の向こうの新宮までは峠はなく、約25km続くなだらかな道に変わります。
三重の鬼ヶ城は「千畳敷(せんじょうじき)」が有名ですが、この千畳敷にある鬼ヶ城伝説によると、征夷大将軍として知られる坂上田村麻呂に討ち取られた海賊・多娥丸の住み家だったそうです。
 
他にも例えば熊本県天草市には「鬼の城(おにのじょう)公園」が。現地に伝わる伝承によると、大昔、村人と仲良くしていた鬼が旅で訪れたお坊さんと力を合わせて、村人や家畜を襲う大蛇を退治したそうで、その鬼鬼たちのテーマパークとして作られています。「鬼の城展望塔」や「鬼の回廊」、「鬼の広場」、「鬼の泉」など…鬼推しの公園ですが、霊場でもあります。
 隣接地には大蛇が巻いていた跡といわれる岩肌に石仏百十体が安置されている「石仏群」、町内に点在するキリシタン墓碑を集めて整備した「キリシタン墓碑公園」もあります。
 
日本各地に鬼伝説や鬼に由来する地名・名勝があります。甘草のように優しい鬼たちの伝説もありますので、ぜひ調べてみてください。
 
 

山崎 敬子 / Yamazaki keiko

実践女子大学院文学研究科美術史学専攻修士課程卒。大学在学時から折口信夫の民俗芸能学を学び、全国の祭礼を見て歩く。有明教育芸術短期大学子ども教育学科非常勤講師(民俗学)や早稲田大学メディア文化研究所招聘研究員などを経て、現在は、玉川大学芸術学部パフォーミング・アーツ学科講師(民俗芸能論)や学習院さくらアカデミー講師ほか。また、民俗芸能を地域資産として活かすべく、(株)オマツリジャパンなどで地域活性に取り組んでいる。


著作例:
編集:『年中行事辞典』(三隅治雄・編/東京堂出版 2007年)、
共著:『メディアの将来像』(メディア文化研究所・編/一藝社2014年)
著書:『にっぽんオニ図鑑』(じゃこめてい出版 2019年)
脚本:朗読劇『イナダヒメ語り』(武蔵一宮氷川神社 2018年)
コラム:オニ文化コラム(社)鬼ごっこ協会 毎月更新)、山崎先生の民俗学(ミドルエッジ)、にほん風習風土記(陸上自衛隊)、氷川風土記(武蔵一宮氷川神社)