2021.12.24

『オニ文化コラム』Vol,81

 
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術学部講師

 
 
2021年も終わりを迎えようとしております。1年の最後は大晦日です。
 
大晦日の夜、悪鬼を追いはらうための儀式が、かつて平安時代の宮中にありました。「追儺」です。晦日の大祓についで行われ、大儺とも鬼やらいともいいます。これは疫病その他の災難を追放しようとするもので、古くは中国に始まります。中国ではどうだったかというよ、「周礼」によれば方相氏と称する呪師が熊の皮を被り、四つの黄金の目玉のある面をつけ、黒衣に朱の裳をつけ、手に戈と盾をもって疫鬼を追い出したそうです。日本へは文武天皇のころに伝わったと言われ、慶雲3年(706)に初めて行なわれました。その時は諸国に疫病が流行して百姓が多く死んだので、土牛をつくって「大儺」が行われました。
 
かつては日本でも方相氏が鬼を追い払う役目を負っていた追儺ですが、日本では、陰陽師が鬼を追い払う祭文を読み、方相氏が盾と矛を打ち鳴らしながら、侲子を従い、貴族たちが桃の木の弓で矢を射て、見えない鬼を追い出しておりました。その後、追儺は次第に社寺・民間にも伝播し、やがて節分の夜、豆をまいて禍を追う行事になり、現在に至ります。
 
民間に伝播した追儺(鬼やらい)は、現在は2月の節分に行われます。全国的に豆撒きが盛んですが、なかには大晦日に豆撒きを行うところも。ですから、古来始まった「追儺」は、現在では①大晦日や正月の鬼やらいの行事、②二月節分の豆撒きという2つの意味合いがあります。いずれにしても鬼が登場し、日本人にとっては、最も鬼と接する行事となりました。そしてその中で、災厄という外因に加え、自身の心に潜む鬼をも追い払い、新しい年が幸多からんことを願うようになったのでしょう。
 
さて、本年は、1年遅れで東京オリンピックが開催され、アスリートの皆様が競技を競う姿に感動や勇気をいただきました。ですが、スポーツはアスリートのためだけのものではありません。子供たちが楽しく動けること―――それこそ全ての競技において一番大切なことだと思います。ですから、誰もが楽しめるスポーツ鬼ごっこは全ての競技の基礎でもあります。
 
来年も鬼ごっこの笑顔溢れる年になることを祈念致します。皆様よい年越しを。
 

山崎 敬子 / Yamazaki keiko

実践女子大学院文学研究科美術史学専攻修士課程卒。大学在学時から折口信夫の民俗芸能学を学び、全国の祭礼を見て歩く。有明教育芸術短期大学子ども教育学科非常勤講師(民俗学)や早稲田大学メディア文化研究所招聘研究員などを経て、現在は、玉川大学芸術学部パフォーミング・アーツ学科講師(民俗芸能論)や学習院さくらアカデミー講師ほか。また、民俗芸能を地域資産として活かすべく、(株)オマツリジャパンなどで地域活性に取り組んでいる。


著作例:
編集:『年中行事辞典』(三隅治雄・編/東京堂出版 2007年)、
共著:『メディアの将来像』(メディア文化研究所・編/一藝社2014年)
著書:『にっぽんオニ図鑑』(じゃこめてい出版 2019年)
脚本:朗読劇『イナダヒメ語り』(武蔵一宮氷川神社 2018年)
コラム:オニ文化コラム(社)鬼ごっこ協会 毎月更新)、山崎先生の民俗学(ミドルエッジ)、にほん風習風土記(陸上自衛隊)、氷川風土記(武蔵一宮氷川神社)