2021.9.20

『オニ文化コラム』Vol,78

 
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術学部講師

 
能楽とは、室町時代から演じ受け継がれてきた日本の舞台芸術です。そのルーツは遠く奈良時代まで遡り、大陸から渡来した芸能の一つである散楽(さんがく)という民間芸能などが当てはまります。平安時代には散楽は猿楽(申楽)と呼ばれるようになり、狂言へも発展していきました。この散楽、猿楽が能楽に繋がっていきます。
また、平安貴族が農村の民俗を見ることを楽しんだことから発展した田楽。こちらも影響を与えました。
そして14世紀後半、大和猿楽出身の観阿弥が将軍足利義満の庇護の下で能楽の素地を作り、息子の世阿弥が現在の能楽を確立したのです。
 
さてその能楽ですが、初番目物(神能)・二番目物(修羅物)・三番目物(鬘物)・四番目物(雑物)・五番目物(切能)と、演目を登場する役柄と曲趣によって5つに分ける分類法「五番立て」があります。
本来朝日が昇ってきて初番目物から始まり、昼が過ぎ、陽が傾き暮れていくと五番目物で終わるのですが、現在はこの方法で行なわれる事は少なく、能楽協会が昭和36年に協会最初の公演「式能」として行って以降、毎年、翁附五番立(江戸時代の基本的番組編成、一日はかからない)にて開催しています。
 
このうち切能とは、能鬼・天狗・天神・雷神・龍神など主に人間以外の異類がシテ(主役)となる曲です。五番立においては1日の最後の五番目に演じられることから、切能とも呼ばれていますが、その内容から別名「鬼畜物」とも言われます。全てに太鼓が入り、前半後半に舞台が分かれ、前半では人間として登場し、後半で本性を現すことが多いようです。「大江山」「土蜘蛛」「紅葉狩」など鬼退治の能もここに分類されます。最後に迫力のある鬼退治が出て盛り上がるという感じだったのかもしれませんね。
最後に。能を大成させた世阿弥は『二曲三体人形図』(法政大学能楽研究所所蔵)の中に絵を描いているのですが、ここで実は鬼も描いております。形鬼心人(形は鬼・心は人)と記される「砕動風」という鬼と、勢形心鬼(勢いも形も心も鬼)である「力動風」と呼ばれる鬼です。
そう、鬼は世阿弥ですら一言で説明しきれない様々の性質があるのです。能楽の鬼もぜひ一度ご覧くださいませ。
 
 
 

山崎 敬子 / Yamazaki keiko

実践女子大学院文学研究科美術史学専攻修士課程卒。大学在学時から折口信夫の民俗芸能学を学び、全国の祭礼を見て歩く。有明教育芸術短期大学子ども教育学科非常勤講師(民俗学)や早稲田大学メディア文化研究所招聘研究員などを経て、現在は、玉川大学芸術学部パフォーミング・アーツ学科講師(民俗芸能論)や学習院さくらアカデミー講師ほか。また、民俗芸能を地域資産として活かすべく、(株)オマツリジャパンなどで地域活性に取り組んでいる。


著作例:
編集:『年中行事辞典』(三隅治雄・編/東京堂出版 2007年)、
共著:『メディアの将来像』(メディア文化研究所・編/一藝社2014年)
著書:『にっぽんオニ図鑑』(じゃこめてい出版 2019年)
脚本:朗読劇『イナダヒメ語り』(武蔵一宮氷川神社 2018年)
コラム:オニ文化コラム(社)鬼ごっこ協会 毎月更新)、山崎先生の民俗学(ミドルエッジ)、にほん風習風土記(陸上自衛隊)、氷川風土記(武蔵一宮氷川神社)