2021.8.27

『オニ文化コラム』Vol,77

 
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術学部講師

 
 
お盆も過ぎ、夏が終わりに近づきつつあります。お盆はあの世のご先祖さまや不慮の死を遂げた方々の魂を偲ぶ時期でもあります。
 
日本人は神道や仏教など色々の教えを取り込んできた国で、その一つに「十王信仰」があります。十王信仰は古代中国で始まり、平安時代末期には日本に伝わり「地蔵菩薩発心因縁十王経」(地蔵十王経)が作られました。
 
この信仰では人は死後、四十九日の間は霊魂としてさまよっている状態で、冥途の旅にでるとされます。この四十九日間から始まる旅を「死出の旅」といいまして、この期間に、十王たちの裁きを受けます。例えば初七日は秦広王(不動明王)によって「生き物をころしているか」「他人のものを盗んだか」「不倫をしたか」「嘘をついているか」「酒を飲んだか」など裁きを受けます。そして次々と7日おきに十王たちの裁きが。十王の中で最も有名な王は35日目の裁きを担当する閻魔王(地蔵菩薩)かもしれませんが、49日目に太山王(薬師如来)の裁きを受けて、いよいよ判決が決まった亡者は、罪の内容にとって天・人・阿修羅・畜生・餓鬼・地獄の六道のいずれかに転生することとなります。
 
とはいえ、実はこの49日間で判決が継続される場合も。これは死後100日目の平等王(観音菩薩)や、死後365日(一周忌)の都市王(勢至菩薩)、死後1095日(三回忌)の五道転輪王(阿弥陀如来)による審判です。この十王信仰が拡がり、四十九日や一周忌、三周忌といった追善供養も行われるように。十王たちの審判に向け、家族の魂が罪を持っていた場合の情状酌量のための行事とも言えます。
 
 そしてもうひとつ民間に定着したものがあります。源信僧都の『往生要集』やお寺などでの地獄極楽図の絵の解説話などから地獄の様子も庶民に定着したのです。それはもう、想像を絶する期間さまざまな罰を受けることになるのですが、ここでその罰を与える存在が「極卒」。彼らの姿こそ、今私たちがイメージするところの恐ろしい顔、角、そして体躯の「鬼」の姿。先に紹介した餓鬼道も、文字通り飢えた「鬼」になる地獄です。
 
十王信仰や地獄が定着すると共に、恐ろしい存在として鬼が庶民に定着していったことは想像に難くありません。
 

山崎 敬子 / Yamazaki keiko

実践女子大学院文学研究科美術史学専攻修士課程卒。大学在学時から折口信夫の民俗芸能学を学び、全国の祭礼を見て歩く。有明教育芸術短期大学子ども教育学科非常勤講師(民俗学)や早稲田大学メディア文化研究所招聘研究員などを経て、現在は、玉川大学芸術学部パフォーミング・アーツ学科講師(民俗芸能論)や学習院さくらアカデミー講師ほか。また、民俗芸能を地域資産として活かすべく、(株)オマツリジャパンなどで地域活性に取り組んでいる。


著作例:
編集:『年中行事辞典』(三隅治雄・編/東京堂出版 2007年)、
共著:『メディアの将来像』(メディア文化研究所・編/一藝社2014年)
著書:『にっぽんオニ図鑑』(じゃこめてい出版 2019年)
脚本:朗読劇『イナダヒメ語り』(武蔵一宮氷川神社 2018年)
コラム:オニ文化コラム(社)鬼ごっこ協会 毎月更新)、山崎先生の民俗学(ミドルエッジ)、にほん風習風土記(陸上自衛隊)、氷川風土記(武蔵一宮氷川神社)