2021.7.24

『オニ文化コラム』Vol,76

 
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術学部講師

 
 
いよいよ東京五輪が始まりますね!
 
新型コロナウィルス感染症の影響もあり、病への不安始め色々の思惑や政治的な視点などまさに魑魅魍魎が跋扈するレベルで、世界中で混乱が収まっていないと思います。この「魑魅魍魎が跋扈する」とは、様々な化け物や物の怪(もののけ)の類いが棲みついて、好きなままに振舞っている様を表現した言い回しですが、政治の世界を表現する際に使われることが多い気がします。さておき「魑魅魍魎」。すべての漢字に「鬼」が入っています。今回はこの言葉について。
 
春秋時代(前722年~481年)を中心とする中国古代の史伝説話の宝庫『春秋左氏伝(しゅんじゅうさしでん)』に、「魑魅魍魎」についての記述があり、そこには「鬼神を絵形にして、鬼神の絵形を作って備えたので、人々が山林に入っても魑魅魍魎に逢うことがなくなった」という内容が記されています。この書では、「魑」は山の神、「魅」は怪物、「魍魎」は水の神と説明されているようです。このほか、中国前漢の時代に司馬遷が著した『史記』にも「魑魅」の記述があり、その注記に「山林中にいる怪物で人に害をする」と記されています。説明がそれぞれ異なることもあり、魑魅魍魎の意味を調べると魑魅と魍魎を併せて魑魅魍魎という四字熟語ができたとし、「自然界に潜む妖気や霊気から生まれる邪悪な霊」、「魑魅の語源は山の化け物や山の神であり、魍魎の語源は川や沼に住む水の化け物や水の神」などと紹介されています。いずれにせよ、精霊的な存在を表現した言葉であることは確かなようです。
 
それが転じて、「狡猾に人を出し抜いたり悪だくみをしたりする化け物のような人間」の意で使われるようにもなり、「跋扈(ばっこ)」すると表現するように。「跋扈」は後漢(25~220)時代を記した歴史書「後漢書」崔駰伝に登場する言葉で、「魚がかごを越えて跳ねることを表現し、転じて「ほしいままに振る舞うこと」「勝手なふるまいをする」という意味です。魑魅魍魎が跋扈しない社会を目指したいですね。
 
政治家はじめ色々の方々それぞれに五輪について各々の意見があると思いますが、自分は、出場される選手の皆様を純粋に応援したいと思います。
 
 

山崎 敬子 / Yamazaki keiko

実践女子大学院文学研究科美術史学専攻修士課程卒。大学在学時から折口信夫の民俗芸能学を学び、全国の祭礼を見て歩く。有明教育芸術短期大学子ども教育学科非常勤講師(民俗学)や早稲田大学メディア文化研究所招聘研究員などを経て、現在は、玉川大学芸術学部パフォーミング・アーツ学科講師(民俗芸能論)や学習院さくらアカデミー講師ほか。また、民俗芸能を地域資産として活かすべく、(株)オマツリジャパンなどで地域活性に取り組んでいる。


著作例:
編集:『年中行事辞典』(三隅治雄・編/東京堂出版 2007年)、
共著:『メディアの将来像』(メディア文化研究所・編/一藝社2014年)
著書:『にっぽんオニ図鑑』(じゃこめてい出版 2019年)
脚本:朗読劇『イナダヒメ語り』(武蔵一宮氷川神社 2018年)
コラム:オニ文化コラム(社)鬼ごっこ協会 毎月更新)、山崎先生の民俗学(ミドルエッジ)、にほん風習風土記(陸上自衛隊)、氷川風土記(武蔵一宮氷川神社)