2021.6.22

『オニ文化コラム』Vol,75

 
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術学部講師

 
夏が近づいてきましたので、夏らしい鬼を紹介します。
 
夏の虫といえばカブトムシやクワガタムシを思い出す人も多いのではないでしょうか。ところでカブトムシ(甲虫、兜虫)の名の由来は、雄成虫が頭部によく発達した大きな角を持つため、日本の兜のように見えることによるそうです。一方のクワガタムシは、その多くの種の雄成虫が持つ巨大な大顎が平安時代以降の武将が戦闘の際に被っていた兜についている「鍬形」に似ていることによる、とも言われます。
 
そんな彼らの別の呼び名をご存じでしょうか。それが実は「鬼虫」なんです。
 
例えば、webサイト「コトバンク」には「鬼虫〘名〙 昆虫「かぶとむし(兜虫)」の異名。《季・夏》 〔重訂本草綱目啓蒙(1847)〕」と紹介されているほか、小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)からの情報として「オニムシ かぶと虫。近世語鬼虫。(東北・関東・中部・近畿・中国)」と紹介しています。webサイト「Weblio辞書」では「【鬼虫】おにむしクワガタ。さらに、ノコギリクワガタやコクワガタなどの種類別に呼び名がある。呼び方は地域によって全く違う。」とあります。栃木県の方言ではカブトムシやクワガタムシを鬼虫と言っていたようですし、茨城県でも土浦など『クワガタムシ』を『おにむし』と呼ぶ地域が県内にあったそうです。
 
このほか、本草学者である小野蘭山の『本草綱目啓蒙』(1806年)には、江戸時代の関東地方ではカブトムシのことを「さいかち」と呼んでいたことが記されておりますが、仙台でオニムシ(鬼虫)、ヘーケムシが予州(愛媛県)ともあります。三重県阿山郡にヘーケとして残っているそうですので、色々な名称があることが分かります。
 
鬼虫の語源についてははっきり分かっていないようですが、兜に見えた部分が鬼の角に見えたのかもしれないですね。
 
現在でも特に子供に人気があるカブトムシやクワガタムシですが、彼らを手に乗せると、時に指や手にガツッとしがみついて離さない時があります。無理やり離そうとするとカブトムシやクワガタは抵抗し、かえって彼らの爪が食い込んでしまいます。たいていはお尻をチョイチョイくすぐると離れるそうです。この夏は昆虫採集に行きたい自分です。
 
 

山崎 敬子 / Yamazaki keiko

実践女子大学院文学研究科美術史学専攻修士課程卒。大学在学時から折口信夫の民俗芸能学を学び、全国の祭礼を見て歩く。有明教育芸術短期大学子ども教育学科非常勤講師(民俗学)や早稲田大学メディア文化研究所招聘研究員などを経て、現在は、玉川大学芸術学部パフォーミング・アーツ学科講師(民俗芸能論)や学習院さくらアカデミー講師ほか。また、民俗芸能を地域資産として活かすべく、(株)オマツリジャパンなどで地域活性に取り組んでいる。


著作例:
編集:『年中行事辞典』(三隅治雄・編/東京堂出版 2007年)、
共著:『メディアの将来像』(メディア文化研究所・編/一藝社2014年)
著書:『にっぽんオニ図鑑』(じゃこめてい出版 2019年)
脚本:朗読劇『イナダヒメ語り』(武蔵一宮氷川神社 2018年)
コラム:オニ文化コラム(社)鬼ごっこ協会 毎月更新)、山崎先生の民俗学(ミドルエッジ)、にほん風習風土記(陸上自衛隊)、氷川風土記(武蔵一宮氷川神社)