2021.3.25

『オニ文化コラム』Vol,72

 
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術学部講師

 
 
2020年度も残り後わずか。関東では上を見れば桜が咲きほこり、地面を見渡せば菜の花の絨毯が私たちを迎えてくれております。この時期はお祝い事も多く、その際に用いるご祝儀袋を飾る水引も美しいですね。今回は、水引とルーツを同じにする紙の鬼をご紹介します。
 
それは「鬼引元結(おにひきもとゆい、おにひきもっとい)」。時代劇や力士の「髷(まげ)」に使用されていることでも知られている紙ひもです。髪をまとめるのに使われた細い紐と思っていただけたらと思います。紙を補細く割いた「紙縒(こより)」のうち、特に丈夫な紙を原料に米糊を用いてさらに強度を上げたものを元結、紙縒りに糊を引いて染色あるいは箔加工したものが水引です。
 
そして、「鬼引元結」は鬼が引いても切れないほど丈夫だという例えで「鬼引」と命名されたそうです。現在でもお相撲さんの髷の結髪のほか、事務用として官公庁や医療機関、お寺などのつづりひもとして使われているそうです。
 
私たちの文化に欠かせない紙が生んだ「水引」も、また、歴史があります。ルーツは諸説ありますが、飛鳥時代、遣隋使が帰朝の折に随伴した答礼使が用意した献上品に、麻紐の赤白で染めたものが結んであったのが水引のはじまり、とも言われています。その後、平安時代の宮中で紅白の水引が考案されたそうですが、一気に時代を現代に引き寄せた昭和時代には、水引の結び方もさまざまな結び方が開発されるなど発展し、一般庶民も使用するアイテムとなりました。また、1998年(平成10年)に開催された冬季オリンピック・パラリンピック「1998年長野オリンピック」では、パラリンピック入賞者には長野県飯田市の水引で作られた月桂樹冠が授与されたほか、参加した選手さんたちには記念品として水引細工が贈与されるなど、古代からの紙文化は日本文化を代表するアイテムとして世界に発信されました。
と、ここまで紙文化としての「鬼引き」をご紹介しましたが、インターネットで「鬼引き」と打ち込んで検索すると、カードゲーム用語として登場します。私はカードゲームを嗜まないのですが、カードゲームも紙文化のひとつですから、これはこれで、現代社会が生んだ新しい鬼ですね。

 
 

山崎 敬子 / Yamazaki keiko

実践女子大学院文学研究科美術史学専攻修士課程卒。大学在学時から折口信夫の民俗芸能学を学び、全国の祭礼を見て歩く。有明教育芸術短期大学子ども教育学科非常勤講師(民俗学)や早稲田大学メディア文化研究所招聘研究員などを経て、現在は、玉川大学芸術学部パフォーミング・アーツ学科講師(民俗芸能論)や学習院さくらアカデミー講師ほか。また、民俗芸能を地域資産として活かすべく、(株)オマツリジャパンなどで地域活性に取り組んでいる。


著作例:
編集:『年中行事辞典』(三隅治雄・編/東京堂出版 2007年)、
共著:『メディアの将来像』(メディア文化研究所・編/一藝社2014年)
著書:『にっぽんオニ図鑑』(じゃこめてい出版 2019年)
脚本:朗読劇『イナダヒメ語り』(武蔵一宮氷川神社 2018年)
コラム:オニ文化コラム(社)鬼ごっこ協会 毎月更新)、山崎先生の民俗学(ミドルエッジ)、にほん風習風土記(陸上自衛隊)、氷川風土記(武蔵一宮氷川神社)