2020.11.02

『オニ文化コラム』Vol,67

 
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術学部講師

 
 
すっかり秋らしくなりました。秋と言えば「食欲の秋」!今月は、秋の食材が生んだ鬼料理「鬼まんじゅう」を紹介いたします。
 
この鬼まんじゅう、農林水産省のサイト「うちの郷土料理 次世代に伝えたい大切な味」に愛知県の郷土料理として紹介されています。サイト「名古屋めし辞典」には「この地方独特の昔から親しまれているお菓子。略して鬼まんと呼ぶことも」「名古屋から他の県に移住した人たちが無性に食べたくなることがあるという和菓子」などと紹介されております。
 
なぜこのまんじゅうが生まれたかというと、太平洋戦争(第二次世界大戦)の戦中・戦後の食糧難の時代に、比較的手軽に手に入ったさつまいもと小麦粉を使ってつくられたのがきっかけ。食糧難で入手がむつかしい米の代わりの主食として広まったのだそうです。
 
戦時中は、さつまいもの美味しさよりも食料としての量が優先されたため、収穫量が多い“護国芋”という品種が生産されました。護国芋の味は現在広く流通している紅あずまや安納芋などの甘みがあって口当たりがなめらかなさつまいもとは異なり、水っぽく旨味がないそうで、これはちょっと切ない。ということで、これらをいかに美味しく食べるかという工夫から「鬼まんじゅう」が誕生したのではないかと言われています。そして、角切りにしたさつまいもの角がゴツゴツ見える様が、鬼のツノや金棒を想起させたことから「鬼まんじゅう」という名称がついたとか。戦争中でも、少しでもおいしくしようとした心が生んだ鬼料理なのです。

そして戦後、日本は高度経済成長期に入ります。すると、農家においても腹持ちの良い安価なおやつとして重宝され、定着していきました。現在では、地域によって「芋ういろ」や「芋まん」「芋まんじゅう」など、さまざまな呼び名があるそうです。全国に視野を拡げると、例えば大分県「石垣まんじゅう」は鬼まんじゅうと近い作り方かな、と思います。
 
最後に、愛知県の「食育ネットあいち」には「「飢えをしのぐだけでなく、鬼を封じ込めて食べてしまえ」という願いが込められているといわれる。」と書かれております。ということは、実は鬼退治のまんじゅうでもありそうですね♪
 
 

山崎 敬子 / Yamazaki keiko

実践女子大学院文学研究科美術史学専攻修士課程卒。大学在学時から折口信夫の民俗芸能学を学び、全国の祭礼を見て歩く。有明教育芸術短期大学子ども教育学科非常勤講師(民俗学)や早稲田大学メディア文化研究所招聘研究員などを経て、現在は、玉川大学芸術学部パフォーミング・アーツ学科講師(民俗芸能論)や学習院さくらアカデミー講師ほか。また、民俗芸能を地域資産として活かすべく、(株)オマツリジャパンなどで地域活性に取り組んでいる。


著作例:
編集:『年中行事辞典』(三隅治雄・編/東京堂出版 2007年)、
共著:『メディアの将来像』(メディア文化研究所・編/一藝社2014年)
著書:『にっぽんオニ図鑑』(じゃこめてい出版 2019年)
脚本:朗読劇『イナダヒメ語り』(武蔵一宮氷川神社 2018年)
コラム:オニ文化コラム(社)鬼ごっこ協会 毎月更新)、山崎先生の民俗学(ミドルエッジ)、にほん風習風土記(陸上自衛隊)、氷川風土記(武蔵一宮氷川神社)