2020.3.26

『オニ文化コラム』Vol,60

 
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術学部講師

 
以前、テレビの夕方のお天気コーナーで流れていたこの曲を覚えていますか。
 
♪ぼくの名前はヤン坊
ぼくの名前はマー坊
2人合わせて ヤンマーだ
君と僕とでヤンマーだ
小さなものから大きなものまで
動かす力だヤンマーディーゼル
 
これはヤンマーホールディングス(旧・ヤンマーディーゼル)一社提供によるお天気コーナーで流れていた曲です。1959年に開始されて以降、夕方のお茶の間でお馴染みの曲になります。2009年に50周年を迎えるも、放送開始から半世紀以上過ぎ、視聴者の生活も変化してテレビで天気予報を視る人が減ってきたなどの理由から、2014年に放送は終了。この曲もテレビから姿を消しました。
 
今回はこの曲を作ったヤンマーのお話。同社は1933年、世界で初めてディーゼルエンジンの小型化に成功した会社です。農家に生まれたが故に農作業の辛さを熟知している創業者・山岡孫吉が、農作業をもっと楽にしたい想いで開発しました。現在、世界的に認知されているこのヤンマーの社名に鬼が隠れております。
 
時は大正、1920年。創業者の山岡氏が石油エンジンを製造した際、トンボが豊作を象徴することから製品商標を「トンボ印」としようとしました。しかし、他企業が既に商標権を取得しており断念。その時、社員からトンボの王様である「オニヤンマ」から「ヤンマ」とする案がでました。日本の古名「アキツシマ」を「蜻蛉(トンボの和名)島」と書く事もあること、また、ヤンマと山岡氏の名前の「ヤマ」をかけようということになり、1921年、商標を「ヤンマー」と定めました(1952年ヤンマーディーゼルに)。
 
という、このオニヤンマ。鬼蜻蛉と書く日本最大のトンボです。雄の成虫は7cm、雌は8cmほどになります。さらに顎が強い!とはいえ、大きさや顎が名の由来ではなく、「和名は厳しい顔つきと黒白の斑模様から虎の皮の褌を締めた鬼を連想して名づけられたものである(日本産トンボ幼虫・成虫検索図説,東海大学出版会)」とのことです。確かに顔はイカツイ…。
 
そんなオニヤンマが世界初の小型ディーゼルエンジンを開発した企業の社名に隠れていることも、鬼の文化事例だと思います♪
 

山崎 敬子 / Yamazaki keiko

実践女子大学院文学研究科美術史学専攻修士課程卒。大学在学時から折口信夫の民俗芸能学を学び、全国の祭礼を見て歩く。有明教育芸術短期大学子ども教育学科非常勤講師(民俗学)や早稲田大学メディア文化研究所招聘研究員などを経て、現在は、玉川大学芸術学部パフォーミング・アーツ学科講師(民俗芸能論)や学習院さくらアカデミー講師ほか。また、民俗芸能を地域資産として活かすべく、(株)オマツリジャパンなどで地域活性に取り組んでいる。


著作例:
編集:『年中行事辞典』(三隅治雄・編/東京堂出版 2007年)、
共著:『メディアの将来像』(メディア文化研究所・編/一藝社2014年)
著書:『にっぽんオニ図鑑』(じゃこめてい出版 2019年)
脚本:朗読劇『イナダヒメ語り』(武蔵一宮氷川神社 2018年)
コラム:オニ文化コラム(社)鬼ごっこ協会 毎月更新)、山崎先生の民俗学(ミドルエッジ)、にほん風習風土記(陸上自衛隊)、氷川風土記(武蔵一宮氷川神社)