2020.1.28

『オニ文化コラム』Vol,58

 
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術学部講師

 
 
そろそろ節分の季節。実際、スーパーマーケットなどの店頭で鬼を払うための豆やそれに絡めた各種商品の販売が始まります。その商品たちの中に、時に「柊(ヒイラギ)の葉っぱ+焼いた鰯(時に煮干)の頭」のセットが売られていることがあります。今回はこのお話。
 
これは節分の魔よけとして古くから伝わる「柊鰯(ヒイラギイワシ)」と呼ばれるものです。柊の小枝と焼いた鰯の頭をセットにしたものを自分の家の入り口に飾ったり、あるいは節分に鰯を焼いたりします。柊の葉の棘が鬼の目を刺すので門口から鬼が入れず、また焼いた鰯の臭いや煙で鬼が近寄らないとされました。鰯の臭いで鬼を誘い、柊の葉の棘が鬼の目を刺すとも言われますが、いずれにせよ柊と鰯で1組です。西日本では、「焼嗅(神事)」と書き、ヤイカガシ、ヤッカガシ、ヤキサシなど読んでおります。
 
柊鰯は実は古くから行われている風習でして、有名な事例としては、平安時代・10世紀に紀貫之が著した『土佐日記』に「小家の門の端出之縄の鯔の頭、柊らいかにぞ。とぞいひあへなる」という記述があります。この「鯔」はナヨシと読み、現在のボラです。「端出之縄」は現在の注連縄のことでして、家の門に注連縄・ボラの頭・柊を飾っていたようです。いつからかボラより鰯が一般的になったのかはっきりしていないものの、いずれにせよ柊鰯は各地それぞれの風習としてひろがりました。例えば、面白い例としては広島県広島市の住吉神社の「焼嗅神事」。「この神事の時代考証は広島大学大学院教授三浦正幸先生がされた」と神社のホームページに書かれており、並々ならぬ本気度を感じさせる神事で、毎年2月3日に巫女さんたちが何と鰯1000匹の頭を焼き、大うちわでその煙と臭いを扇いで鬼や厄を払います。それだけでも凄まじいのですが、もっとユニークなのが追い払われる赤鬼・疫病神・貧乏神・世間を騒がせた人々たち。その時々に話題になった厄が登場します。たとえばデング熱が流行った年にはデング熱の疫病神といった具合です。神事終了後、鰯の頭をヒイラギの枝に刺してご参拝客に配ってくださいます。
 
というわけで、節分には豆も良いけど鰯もぜひ♪
 

山崎 敬子 / Yamazaki keiko

実践女子大学院文学研究科美術史学専攻修士課程卒。大学在学時から折口信夫の民俗芸能学を学び、全国の祭礼を見て歩く。有明教育芸術短期大学子ども教育学科非常勤講師(民俗学)や早稲田大学メディア文化研究所招聘研究員などを経て、現在は、玉川大学芸術学部パフォーミング・アーツ学科講師(民俗芸能論)や学習院さくらアカデミー講師ほか。また、民俗芸能を地域資産として活かすべく、(株)オマツリジャパンなどで地域活性に取り組んでいる。


著作例:
編集:『年中行事辞典』(三隅治雄・編/東京堂出版 2007年)、
共著:『メディアの将来像』(メディア文化研究所・編/一藝社2014年)
著書:『にっぽんオニ図鑑』(じゃこめてい出版 2019年)
脚本:朗読劇『イナダヒメ語り』(武蔵一宮氷川神社 2018年)
コラム:オニ文化コラム(社)鬼ごっこ協会 毎月更新)、山崎先生の民俗学(ミドルエッジ)、にほん風習風土記(陸上自衛隊)、氷川風土記(武蔵一宮氷川神社)