2019.10.30

『オニ文化コラム』Vol,55

 
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術学部講師

 
令和初の食欲の秋。このコラムらしく鬼のお菓子をご紹介します。
 
それは、愛媛県西条市の三谷鬼板本舗さん(創業明治年)の「鬼板」!
 
西条市のお土産としても人気のこの鬼板は表面に「石鎚山」と焼印がされた硬いお煎餅。1袋8枚入りで、トッピングは2種類。黒ゴマと青のり。1袋に4枚ずつ入っております。1枚1枚すべて手焼きで、少なくとも明治時代後半には作られていて、今も変わらぬ作り方です。
 
ではなぜ「鬼板」と言うのか。
これは「鬼を追い払うくらい硬いお煎餅」という意味なのだそうです。
三谷鬼板本舗さんやお土産サイトなどの解説によると、石鎚山に伝わっている民話が元ネタ。その昔、この地域で暮らす子供たちを食べようと狙う鬼が家の壁の小さな穴から子供たちを覗いていて、それに気がついたお婆さんが硬いお煎餅を作って穴を塞いで鬼を防いだ・・・というお話が伝わっているそうで、そこから名前を取ったということです。
そしてこのお煎餅は確かに硬い。本当に硬い。
 
と、ここまで書いてふと、また別の鬼絡みのお話も思い出しました。このように硬い煎餅というと三重県伊賀地方の名物菓子「かた焼き」も有名です。日本って硬いのが好きなのかもしれない・・・と言いたいところですが、こちらの煎餅はかつて伊賀忍者が携帯した携帯食・非常食がルーツであるとも言われております。「忍者かたやき」を販売する小澤製菓さん(伊賀市)や、元祖と名高い伊賀上野の伊賀菓庵山本さんの「かたやき」など、ネットで検索するだけでも楽しいです。
 
そしてこの伊賀上野といえば、国指定重要無形民俗文化財でもある「上野天神祭」!ここの山車はユネスコ無形文化遺産にも指定されておりますが、それより紹介したいのは「鬼行列」!豪華な9基のだんじり(山車)も圧巻ですが、その後見ることができる鬼行列は、大御幣や悪鬼、そして伊賀の忍者の元祖と伝わる役行者が出てまいりまして、その後、鐘などを背負ってヒョロヒョロフラフラふらつきまわる「ひょろつき鬼」がコミカルに動き回ります。最後には鬼を従えた鎮西八郎為朝が登場し、行列は終わるのですが、日本各地をみても、こんな行列はココにしかないと思います。ぜひ一度♪
 
 

山崎 敬子 / Yamazaki keiko

実践女子大学院文学研究科美術史学専攻修士課程卒。大学在学時から折口信夫の民俗芸能学を学び、全国の祭礼を見て歩く。有明教育芸術短期大学子ども教育学科非常勤講師(民俗学)や早稲田大学メディア文化研究所招聘研究員などを経て、現在は、玉川大学芸術学部パフォーミング・アーツ学科講師(民俗芸能論)や学習院さくらアカデミー講師ほか。また、民俗芸能を地域資産として活かすべく、(株)オマツリジャパンなどで地域活性に取り組んでいる。


著作例:
編集:『年中行事辞典』(三隅治雄・編/東京堂出版 2007年)、
共著:『メディアの将来像』(メディア文化研究所・編/一藝社2014年)
著書:『にっぽんオニ図鑑』(じゃこめてい出版 2019年)
脚本:朗読劇『イナダヒメ語り』(武蔵一宮氷川神社 2018年)
コラム:オニ文化コラム(社)鬼ごっこ協会 毎月更新)、山崎先生の民俗学(ミドルエッジ)、にほん風習風土記(陸上自衛隊)、氷川風土記(武蔵一宮氷川神社)