2019.6.25

『オニ文化コラム』Vol,51

 
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術学部講師

 
梅雨でうっすら肌寒さを感じる日もある6月。肌寒さ繋がりで「魂」について。人の霊魂に「鬼」がいますので。
 
平安時代中期に成立した日本初の辞書『和名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』。ここに「鬼」について「鬼居偉反(和名、於爾)。或設云、隠字(音、於爾訛也)。鬼者隠而不欲顯形。故俗呼曰隠也。人死魂藭也。」とあります。現代語訳しますと「鬼の音は「居偉」の反切(和名は於爾(オニ))とのことである。ある説では隠という字も使うという(この音が訛って於爾(オニ)となったのである)。鬼とは隠れ、そして姿を現したがらないものである。だから俗に隠と呼ぶのである。死んだ人の魂神である。」という意味です。日本的な「オニ」の語源を解説したものとして知られておりますが、文章最後のほうにある「死んだ人の魂」を鬼というというのは中国の鬼。
 
世界大百科事典(平凡社)には「中国において,死者の霊魂を意味する。人間は陽気の霊で精神をつかさどる魂と、陰気の霊で肉体をつかさどる魄(はく)との二つの神霊をもつが、死後、魂は天上に昇って神となり、魄は地上にとどまって鬼となると考えられた。鬼は神とともに超自然的な力を有し、生者に禍福をもたらす霊的な存在であるが、特に天寿を全うすることができずに横死した人間の鬼は、強い霊力を有し、生者に憑依(ひようい)し祟(たたり)をなす悪鬼となるとして恐れられた。」と解説されております。つまり、「魂」は大陸由来の意味を持った文字なのです。
 
現在においても中国や台湾などで使われる「鬼」。台湾をはじめとする中華圏では、旧暦7月は「鬼月(クィユェ)」と呼ばれまして、これは「死者の霊(鬼)が霊界から人間界に戻ってくる1カ月間」の事を意味します。旧暦7月1日に「鬼門」(あの世の扉)が開き、それから1カ月間、先祖や無縁仏の霊(鬼)がこの世に戻ってくるのです。人々は7月1日から30日までの1日を選び、「普渡(プードゥー)」と呼ばれる儀式を行い、多くの食べ物を用意し、盛大にもてなします。日本のお盆と似ているようで似ていない・・・そんな鬼月の行事です。
 
日本ではお盆に鬼が帰ってくるとは言いませんものね(汗) 

山崎 敬子 / Yamazaki keiko

実践女子大学院文学研究科美術史学専攻修士課程卒。大学在学時から折口信夫の民俗芸能学を学び、全国の祭礼を見て歩く。有明教育芸術短期大学子ども教育学科非常勤講師(民俗学)や早稲田大学メディア文化研究所招聘研究員などを経て、現在は、玉川大学芸術学部パフォーミング・アーツ学科講師(民俗芸能論)や学習院さくらアカデミー講師ほか。また、民俗芸能を地域資産として活かすべく、(株)オマツリジャパンなどで地域活性に取り組んでいる。


著作例:
編集:『年中行事辞典』(三隅治雄・編/東京堂出版 2007年)、
共著:『メディアの将来像』(メディア文化研究所・編/一藝社2014年)
著書:『にっぽんオニ図鑑』(じゃこめてい出版 2019年)
脚本:朗読劇『イナダヒメ語り』(武蔵一宮氷川神社 2018年)
コラム:オニ文化コラム(社)鬼ごっこ協会 毎月更新)、山崎先生の民俗学(ミドルエッジ)、にほん風習風土記(陸上自衛隊)、氷川風土記(武蔵一宮氷川神社)