2019.2.26

『オニ文化コラム』Vol,47

 
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術学部講師

春間近・・・梅や河津桜を愛でながら春を楽しみに待つこの頃です。一方で、春は卒業や入学などライフステージの切り替え時でもあるため、初心を思い出す時期でもあります。自分もふと、「初心」という言葉からを勉強の原点を思い出し・・・今回は鬼の記述について書かせていただきます。
 
皆様が思い浮かべる鬼はどのような姿をしておりますか?おそらくは角が生え、虎皮のパンツをはいている姿かと思います。これは陰陽道などで鬼がやってくる方向として警戒された、北東(丑寅うしとら)に由来します。昔は十二支(子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥)で時刻や方角を表しておりまして、現在の北東は丑と寅の間に該当していました。そしてこの丑(うし)と寅(とら)から、牛(うし)の角と虎(とら)の皮の連想が生じ、鬼の姿に反映されていきました。
 
しかし、日本書記を読むと、角が!
巻6「垂仁天皇」(第11代天皇)の項に「額(ぬか)に角負いたる人」という記述があります。『額に角・・・まさか?』と思いきや、これは鬼をさした記述ではありません。おそらく頭に被ったその兜に角がついていたということか、その人のお名前から・・・の連想のようです。ここでの記述は鬼とは無関係ですが、実は、日本書記には「鬼」の文字がいくつか登場します。
 
例えば、巻2「神代下(かみよのしものまき)」には「悪しき鬼(モノ)」「順(まつろ)はぬ鬼神等(カミたち)」という記述があります。漢字は「鬼」ですが、どちらもオニとは読みません。前者はモノ、後者はカミです。日本民俗学の折口信夫先生の1926(大正15)年の講演筆記「鬼の話」によると、折口先生は古代日本人の神観念にはカミ、タマ、モノ、オニの4つがあると述べておられます。オニは神様でもあるのです。現在もその姿は祭礼の中に登場するオニたちに受け継がれております。秋田県のナマハゲなどは、外見こそ恐ろしく正しくオニの風貌ですが、その真意は歳の変わり目に人々に祝福を与える来訪神です。
 
その一方、桃太郎に退治される鬼のように退治・調伏される存在としてのオニも、確かに存在してきました。
 
そう、日本のオニは1つに絞り込めない存在なのです。

山崎 敬子 / Yamazaki keiko

実践女子大学院文学研究科美術史学専攻修士課程卒。大学在学時から折口信夫の民俗芸能学を学び、全国の祭礼を見て歩く。有明教育芸術短期大学子ども教育学科非常勤講師(民俗学)や早稲田大学メディア文化研究所招聘研究員などを経て、現在は、玉川大学芸術学部パフォーミング・アーツ学科講師(民俗芸能論)や学習院さくらアカデミー講師ほか。また、民俗芸能を地域資産として活かすべく、(株)オマツリジャパンなどで地域活性に取り組んでいる。


著作例:
編集:『年中行事辞典』(三隅治雄・編/東京堂出版 2007年)、
共著:『メディアの将来像』(メディア文化研究所・編/一藝社2014年)
著書:『にっぽんオニ図鑑』(じゃこめてい出版 2019年)
脚本:朗読劇『イナダヒメ語り』(武蔵一宮氷川神社 2018年)
コラム:オニ文化コラム(社)鬼ごっこ協会 毎月更新)、山崎先生の民俗学(ミドルエッジ)、にほん風習風土記(陸上自衛隊)、氷川風土記(武蔵一宮氷川神社)