2018.8.30

『オニ文化コラム』Vol,41

 
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術学部講師

日本で生活していると、何かしらの機会で「オニ(鬼)」という存在・言葉に出会うかと思います。奈良時代の『日本書記』や平安時代の『今昔物語集』、江戸時代の『画図百鬼夜行』などにも描かれ、日本文化に根付いている存在ですが、「鬼って何?」と訊かれると意外に説明しにくい存在でもあります。「鬼」が付いた言葉も多く、女性だと「鬼母」「鬼嫁」などがありますし、男性ですと仕事と絡む言葉が比較的記憶に残りやすいのか「鬼教官」「鬼上司」など。そういえば鉄スクラップ関連用語の中に「鬼ダライ」というのもあります。
 
「オニ」という言葉は日本最古の百科辞典『和名類聚抄』鬼魅類第17(平安時代10世紀成立か)には「云隠字音於尒訛也鬼物隠而不欲顯」とあり、現代語訳しますと「鬼は物に隠れて顕はることを欲せざるゆえに、俗に呼びて隠と云ふなり」ということですので、そも「隠れていて見えない」存在の総称だったのかもしれません。江戸時代の研究者の中は「隠」ではなく「陰」ではないか?という声もありますが、ともかく、この『和名類聚抄』の解説が日本の鬼の語源として知られております。
 
さて、そんな鬼は文化変遷の中、色々な意味を持つようになります。それらがどう分類されるのか?というお話を今回させていただきます。
 
文芸評論家の馬場あき子さんは5種類に分類しております。

  1. ① 民俗学上の鬼で祖霊や地霊
  2. ② 山岳宗教系の鬼、山伏系の鬼、例、天狗
  3. ③ 仏教系の鬼、邪鬼、夜叉、羅刹
  4. ④ 人鬼系の鬼、盗賊や凶悪な無用者
  5. ⑤ 怨恨や憤怒によって鬼に変身の変身譚系の鬼

 
民俗学者の小松和彦さんは2つに分類。

  1. ① 想像上の鬼
  2. ② 歴史上実在としての鬼(時の政権に従わない人々)

 
そして鬼の頭領「酒呑童子(しゅてんどうじ)」の拠点があったことで有名な京都府福知山大江町にある「日本の鬼の交流博物館」では10分類に。
 

  1. ① 祀られる鬼
  2. ② 暮らしの中の鬼
  3. ③ 民俗芸能の鬼
  4. ④ 演じられる鬼
  5. ⑤ 能・狂言の鬼
  6. ⑥ 鬼女・般若
  7. ⑦ 節分の鬼
  8. ⑧ 退治される鬼
  9. ⑨ 世界の鬼
  10. ⑩ 鬼瓦

 
そう。それぞれに分類されております。鬼が日本文化に定着した結果、単語が持つエッセンスが増えたからでしょうか。個人的には別立てで「鬼ごっこ」を設けたいですね★

山崎 敬子 / Yamazaki keiko

実践女子大学院文学研究科美術史学専攻修士課程卒。大学在学時から折口信夫の民俗芸能学を学び、全国の祭礼を見て歩く。有明教育芸術短期大学子ども教育学科非常勤講師(民俗学)や早稲田大学メディア文化研究所招聘研究員などを経て、現在は、玉川大学芸術学部パフォーミング・アーツ学科講師(民俗芸能論)や学習院さくらアカデミー講師ほか。また、民俗芸能を地域資産として活かすべく、(株)オマツリジャパンなどで地域活性に取り組んでいる。


著作例:
編集:『年中行事辞典』(三隅治雄・編/東京堂出版 2007年)、
共著:『メディアの将来像』(メディア文化研究所・編/一藝社2014年)
著書:『にっぽんオニ図鑑』(じゃこめてい出版 2019年)
脚本:朗読劇『イナダヒメ語り』(武蔵一宮氷川神社 2018年)
コラム:オニ文化コラム(社)鬼ごっこ協会 毎月更新)、山崎先生の民俗学(ミドルエッジ)、にほん風習風土記(陸上自衛隊)、氷川風土記(武蔵一宮氷川神社)