2018.1.26

『オニ文化コラム』Vol,34

 
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術学部講師

2018年最初のオニ文化コラムは国宝のお話を。
 
東京国立博物館が所蔵する国宝「太刀 銘安綱 (名物童子切安綱) 附 絲巻大刀 梨地葵紋散蒔絵大刀箱(たち めい やすつな(めいぶつ どうじぎり やすつな)つけたり いとまきたち なしじあおいもんちらしまきえたちばこ)」です。
 
この童子切安綱という刀。平安時代・10~12世紀頃に伯耆安綱(ほうきやすつな)によって作られたと言われております。サイト「e國寶」には“作者の安綱は平安時代の伯耆国(鳥取県西部)の刀鍛冶で、作品は比較的多く伝わっている。この太刀は、腰反りの高い姿で、変化に富む小乱れの刃文を焼いており、古来「天下五剣」の一つといわれた。江戸時代の刀剣書『享保名物帳』には、「童子切安綱」として源頼光が丹波国の大江山で酒呑童子(しゅてんどうじ)を斬った太刀であるという伝説を記している。”と解説されております。

そしてこの安綱の逸話は『太平記』(作者不詳。14世紀成立か)にも登場します。

『太平記』 巻32 272段 直冬上洛事付鬼丸鬼切事
此太刀は、伯耆国会見郡に大原五郎太夫安綱と云鍜冶、一心清浄の誠を至し、きたひ出したる剣也。時の武将田村の将軍に是を奉る。此は鈴鹿の御前、田村将軍と、鈴鹿山にて剣合の剣是也。其後田村丸、伊勢大神宮へ参詣の時、大宮より夢の告を以て、御所望有て御殿に被納。其後摂津守頼光、太神宮参詣の時夢想あり。
「汝に此剣を与る。是を以て子孫代々の家嫡に伝へ、天下の守たるべし。」と示給ひたる太刀也。されば源家に執せらるゝも理なり。

 
ここでは刀「鬼切」の由来として安綱の名前が登場しております。こうして源氏の宝剣となった安綱の刀は清和源氏の嫡流である源頼光が所有し、丹波国大江山に住み着いた鬼、酒呑童子の首を切り落としたため「童子切」の名称が付いたといわれます。

が、『源平盛衰記 剣巻』には源家相伝の名剣「髭切」と「膝丸」の二つの名剣の継承についての説話があり、髭切は源頼光の配下の渡辺綱に貸し出され、綱が一条戻橋で鬼の腕を斬り、名を鬼丸と改められた、とあります。


伝承は色々分かれておりますが、国が認めた正真正銘の鬼退治の刀であることは事実。ぜひ一度ご覧いただきたく思います。

山崎 敬子 / Yamazaki keiko

実践女子大学院文学研究科美術史学専攻修士課程卒。大学在学時から折口信夫の民俗芸能学を学び、全国の祭礼を見て歩く。有明教育芸術短期大学子ども教育学科非常勤講師(民俗学)や早稲田大学メディア文化研究所招聘研究員などを経て、現在は、玉川大学芸術学部パフォーミング・アーツ学科講師(民俗芸能論)や学習院さくらアカデミー講師ほか。また、民俗芸能を地域資産として活かすべく、(株)オマツリジャパンなどで地域活性に取り組んでいる。


著作例:
編集:『年中行事辞典』(三隅治雄・編/東京堂出版 2007年)、
共著:『メディアの将来像』(メディア文化研究所・編/一藝社2014年)
著書:『にっぽんオニ図鑑』(じゃこめてい出版 2019年)
脚本:朗読劇『イナダヒメ語り』(武蔵一宮氷川神社 2018年)
コラム:オニ文化コラム(社)鬼ごっこ協会 毎月更新)、山崎先生の民俗学(ミドルエッジ)、にほん風習風土記(陸上自衛隊)、氷川風土記(武蔵一宮氷川神社)