2017.11.28

『オニ文化コラム』Vol,32

 
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術学部講師

鬼文化について書かせていただくこのコラム。神としての鬼もいれば仏教の鬼も、そして妖怪としての鬼など色々ですが、今回は「妖怪」についてのお話です。
 
2017年11月12日、徳島県三好町山城町で「怪フォーラム」が開催されました。
これは世界妖怪協会(永久会長 水木しげる)が開催しております。同協会が妖怪文化の普及に貢献した地域「怪遺産」に認定している①岩手県遠野市②鳥取県境港市③徳島県三好市の3県が連携し、妖怪文化の情報発信や地域活性化のために開催し、今回で6回目。
 
なぜ、この3県が「怪遺産」なのか。岩手県遠野市は柳田国男著『遠野物語』で知られる場所で、河童伝説で有名です。島根県境港市は「ゲゲゲの鬼太郎」の生みの親、水木しげる氏の出身地で「妖怪の町」として名高い場所。では、徳島県三好市山城町は?

まず有名なのは、国の名勝として指定されている大歩危峡谷・小歩危峡。オオボケ・コボケという言い方の由来は断崖を意味する古語「ほき(ほけ)」から付けられたという説と、「大股で歩くと危ないから大歩危」、「小股で歩いても危ないから小歩危」という説があります。つまり、この「危ない」というのを覚えておいてください。
 
そんな山城町は、水木先生の漫画でおなじみの「子泣き爺」の故郷でもあります。子泣き爺は民俗学者 柳田国男氏が編集した「妖怪名彙」にも登場する正真正銘の妖怪です。
 
実は、山城は今も数多くの妖怪の伝説が残っています。これは、この地域に平地がほとんど無く、地滑りをおこしやすい地域であることと関係があります。自然災害の被害が多いため、その危険を伝える手段として「そこには怖い妖怪が居るから近づかないように」という伝承が生まれたのです。つまり、自然の中にいる妖怪は「そこは危険だから近づかないで」という先祖からの助言でもあるのです。
 
鬼・・・各地に残る伝説では山に居ることが多いかと思います。「異界としての山に接する地域には鬼伝承は多い」と指摘する研究者もおられます。鬼もまた、自然と共に存在してきたのです。鬼伝説がある場所にもぜひご注目いただけたら幸いです。日本の風土が見えてきて、これもまた面白いかと思います。

山崎 敬子 / Yamazaki keiko

実践女子大学院文学研究科美術史学専攻修士課程卒。大学在学時から折口信夫の民俗芸能学を学び、全国の祭礼を見て歩く。有明教育芸術短期大学子ども教育学科非常勤講師(民俗学)や早稲田大学メディア文化研究所招聘研究員などを経て、現在は、玉川大学芸術学部パフォーミング・アーツ学科講師(民俗芸能論)や学習院さくらアカデミー講師ほか。また、民俗芸能を地域資産として活かすべく、(株)オマツリジャパンなどで地域活性に取り組んでいる。


著作例:
編集:『年中行事辞典』(三隅治雄・編/東京堂出版 2007年)、
共著:『メディアの将来像』(メディア文化研究所・編/一藝社2014年)
著書:『にっぽんオニ図鑑』(じゃこめてい出版 2019年)
脚本:朗読劇『イナダヒメ語り』(武蔵一宮氷川神社 2018年)
コラム:オニ文化コラム(社)鬼ごっこ協会 毎月更新)、山崎先生の民俗学(ミドルエッジ)、にほん風習風土記(陸上自衛隊)、氷川風土記(武蔵一宮氷川神社)