2017.10.4

『オニ文化コラム』Vol,30

 
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術学部講師

食欲の秋、文化の秋・・・そんな季節になりました。このコラムも30回の節目を迎えましたので文化的なお話をば。
 
文化的な鬼といえば「鬼神のお松」。歌舞伎や錦絵などに登場し、石川五右衛門や自来也と並び「日本三大盗賊」として描かれる女盗賊です。ウィキペディアに情報がまとまっておりますので、良ければご覧ください。
ちなみに、このお松は民俗芸能にも登場します。富山県指定無形民俗文化財「小川寺の獅子舞」(魚津市)です。神仏混合の形式を維持した獅子舞の中に登場する女性の面(あねま面)が、鬼神のお松。このほか、青森県にもお松の伝説が残っております。
 
現代の私たちも恐ろしい様や強すぎる様などを「鬼」と表現している気がしますが、日本古来のオニは神様。「恐ろしい」というより「畏れ多い」存在で、人間に害を与える存在ではありません。
恐ろしい鬼は、平安時代あたりから定着した仏教説話の影響が大きい気がします。平安時代前期に成立した『日本霊異記』(正式名称:日本国現報善悪霊異記)や、平安時代末期成立の『今昔物語集』などに登場する鬼です。人を食べたり襲ったり、退治されたりする鬼は「悪いことは仏教の力で解決できますよ」と伝える書物に登場するため、悪い存在として描かれております。
そして現代。鬼は「非常に」という意味でも使われます。『若者言葉辞典』によれば「人並み外れた強さのイメージがある鬼を接頭辞として使」うとのこと。『鬼強い(鬼のように強い→非常に強い)』『鬼ヤバ』などです。
 
若者用語としてだけではない事例もあります。
大手広告会社の電通の『鬼十則』です。第4代社長・吉田秀雄さんが1951年に創った社訓です。これは過労死事件とは別で捉えていただきたい。元電通マンの柴田明彦さんの著書『ビジネスで活かす電通「鬼十則」 仕事に誇りと自分軸を持つ』(朝日新書 2011)を読むと、信念を持って己の仕事をするとはどういうことか?という姿勢を伝える十則だと感じます。強い信念を「鬼」と表現する・・・それもまた、現代の私たちが考える鬼の姿だと思います。


文化は変容します。未来の鬼も今とは違うかもしれません。そんな日本の鬼文化を是非楽しんでください♪

山崎 敬子 / Yamazaki keiko

実践女子大学院文学研究科美術史学専攻修士課程卒。大学在学時から折口信夫の民俗芸能学を学び、全国の祭礼を見て歩く。有明教育芸術短期大学子ども教育学科非常勤講師(民俗学)や早稲田大学メディア文化研究所招聘研究員などを経て、現在は、玉川大学芸術学部パフォーミング・アーツ学科講師(民俗芸能論)や学習院さくらアカデミー講師ほか。また、民俗芸能を地域資産として活かすべく、(株)オマツリジャパンなどで地域活性に取り組んでいる。


著作例:
編集:『年中行事辞典』(三隅治雄・編/東京堂出版 2007年)、
共著:『メディアの将来像』(メディア文化研究所・編/一藝社2014年)
著書:『にっぽんオニ図鑑』(じゃこめてい出版 2019年)
脚本:朗読劇『イナダヒメ語り』(武蔵一宮氷川神社 2018年)
コラム:オニ文化コラム(社)鬼ごっこ協会 毎月更新)、山崎先生の民俗学(ミドルエッジ)、にほん風習風土記(陸上自衛隊)、氷川風土記(武蔵一宮氷川神社)