2017.7.18

『オニ文化コラム』Vol,28

 
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術学部講師

酷暑ですが冷静にオニ文化。
日本には恋人欲しさに頑張ってあと一歩で挫折する鬼の話があります。
 
例えば青森県弘前市十腰内の巖鬼山神社の鬼神太夫伝説。
その昔、怪力の刀鍛冶・鬼神太夫がいた。彼は刀鍛冶長者の娘を嫁に欲しくて長者に申し込むも長者は「一晩で十腰(本)の刀を作ったらね!」と返事。太夫が本当に一晩で十腰の刀を作ったので焦った長者は一腰盗んで川に捨てた。それを知らない太夫、何回数えても九腰なので「十腰ない…」と呟きながら立ち去った。この呟きが「十腰内(とこしない)」の由来になりました…という話。
 
そして秋田県男鹿市の赤神神社五社堂の石段伝説。
その昔、漢の武帝が5匹のコウモリを連れて男鹿に来た。コウモリは5匹の鬼に変わり家来に。鬼たちは正月休みになると里に来て村娘に手を出すなど暴れたので、困った村人は「一晩で1000段の石段を作れたら、1年に1人娘を差し出すよ。作れなかったらもう里には来ないで!」と提案。鬼がコツコツ作り出し1000段作れそうなので、慌てた村ではモノマネ上手な村人がと鶏の鳴き声の真似をした。あと1段!というところで夜が明けたと勘違いした鬼たちは山に帰ったよ…という話。
 
埼玉県嵐山町の鬼鎮神社にも。刀鍛冶親方の娘を嫁にしたい弟子に対し、親方が「1日に100本の刀を作れたらね!」と無茶ぶり。弟子は凄まじい勢いで刀を打ち始め、その凄まじさから弟子はいつしか鬼に!慌てた親方は鶏を無理やり鳴かせて弟子に夜が明けたと誤解させた。最後の1つを作るところで鳴き声を聞いた弟子はショックで死亡。哀れんだ親方は弟子を「鬼鎮様」として祀ったヨ…という話。
 
宮崎県都城市の東霧島神社の鬼岩階段伝説も。霧島山の麓の村に住んでいた悪鬼が娘を嫁に欲しいと親に頼むも断られ、怒って暴れて村の田畑を荒らした。困った村人は神様に相談。神様は鬼に「願いを叶えたいなら一晩で鶏が鳴くまでに1000個の石で石段を作って。出来なければ諦めて!」と提案。鬼は作り出し999個使った。焦った神様は東の空を少し明るくし、鶏を鳴かせた。あと1段ができず鬼は諦めて山奥に消えた…という話。
 
それぞれ微妙に違いますが、やや気の毒な気がしないでもない自分です。

山崎 敬子 / Yamazaki keiko

実践女子大学院文学研究科美術史学専攻修士課程卒。大学在学時から折口信夫の民俗芸能学を学び、全国の祭礼を見て歩く。有明教育芸術短期大学子ども教育学科非常勤講師(民俗学)や早稲田大学メディア文化研究所招聘研究員などを経て、現在は、玉川大学芸術学部パフォーミング・アーツ学科講師(民俗芸能論)や学習院さくらアカデミー講師ほか。また、民俗芸能を地域資産として活かすべく、(株)オマツリジャパンなどで地域活性に取り組んでいる。


著作例:
編集:『年中行事辞典』(三隅治雄・編/東京堂出版 2007年)、
共著:『メディアの将来像』(メディア文化研究所・編/一藝社2014年)
著書:『にっぽんオニ図鑑』(じゃこめてい出版 2019年)
脚本:朗読劇『イナダヒメ語り』(武蔵一宮氷川神社 2018年)
コラム:オニ文化コラム(社)鬼ごっこ協会 毎月更新)、山崎先生の民俗学(ミドルエッジ)、にほん風習風土記(陸上自衛隊)、氷川風土記(武蔵一宮氷川神社)